「森のしあわせ通信」ルシア祭の伝説

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ルシア祭の伝説

スウェーデンではクリスマスである12月25日の4週間前からクリスマスの準備期間アドベントが始まります。2020年のそれは11月29日で、この頃から街の広場ではクリスマスマーケットが開き、クリスマスの飾りやお菓子、ホットワイン、ツリーを売る露店が街の広場で賑わいを見せます。広場にはスケートリンクがオープンするなど寒い中であっても心躍る楽しい光景が目につきます。そんなクリスマスの準備期間に行われるお祭りの一つがルシア祭です。この日を熱心に祝い固有のイベントを持つのはスウェーデンだけです。

ルシア祭は12月13日の聖ルシアの日に行われるもので、スウェーデンでは再生の意味があるとされています。聖ルシアはイタリアのシシリア島生まれの少女でキリスト教信仰のために304年に殺された殉教者です。どのようにしてイタリアの伝説がスウェーデンに伝来したのかは不明ですが、聖ルシアは12月13日に亡くなったため、太陽を欲する北国の人々にとって光を意味するルシアはその名の通り光の象徴となり、当時の人々は聖ルシアのことを輝く光の輪か翼を持った天使のような様で想像していました。

またスウェーデンでは1700年頃まで12月12日から13日の間は1年で最も長い夜と考えられていました。この長い夜はとても危険で人々はあらゆる幽霊や精霊が生き返るとし、動物が厩舎で会話をすると信じていました。一部の地域では、外に出ることさえ控えていたと言います。その後、この長い夜の翌朝に一種の遊びのようなものが生まれました。朝最後に起きた人は怖くて面白いコスチュームを着なければならないというもので、中でも人気の仮装は男性が花嫁のように白い服を着て着飾るというものだったそうです。これらの風習がルシア祭の起源とされており、スウェーデンでは1700年代から広まりを見せ、1800年代には全国で見られるようになりました。

ルシア祭には白いドレスに赤い紐ベルトを腰に巻いた装いの数名の子供たちが、手にキャンドルを持って伝統的な聖ルシアの歌を歌いながら列をなして練り歩きます。先頭を歩くのは聖ルシア役の少女です。聖ルシアは頭の上にロウソク(現在は電池式が多い)とリンゴンベリー(コケモモ)の小枝で作った冠を被り、後に続く侍女たちも冠以外は同じ装いです。さらにお付きとして星の少年たちと呼ばれる子供たちも同行しますが、実はこの星の少年の起源はルシア祭とは関係がありません。星の少年は白いドレスに星の絵柄が描かれた三角帽子を被り、星のついたスティックを手に持ちます。周りに集まった観衆たちは子供たちの列を見守りながら、その後に準備されたコーヒーとサフランパンを楽しみます。国をはじめ地方自治体、商業施設や商店街、老人ホームや病院、学校など、様々なレベルでこのルシア祭が催されます。聖なる歌声と小さな明かりが列をなして進んでいく光景は特別な雰囲気です。

少し前まで全国や各都市で聖ルシアコンテストが催されていました。コンテストに応募した18歳くらいまでの少女たちは、それぞれの街で投票され、その年の聖ルシアの役とそのお付きを任されます。任命された少女たちの最も重要な仕事は教会で行われる毎年恒例の宗教行事に参加することですが、最終選考に残った数名の少女たちの写真が地方紙やショッピングモールのポスターに登場し、まるで美少女コンテストさながらでした。今日、もうその光景は見られません。男女平等をかかげるスウェーデンらしい変化です。


main_002_sweden23グスタフヴァーサ教会で早朝に行われるルシア祭の様子
Photo:Ola Ericson/imagebank.sweden.se

ノーベル賞受賞者へのサプライズ

家庭では子供たちが早起きをして聖ルシアの格好になりコーヒーとサフランパン、ジンジャークッキーを持ってベッドで寝ている両親のもとへ運び驚かせる風習があります。ルシア祭はノーベル賞授賞式の時期でもあり、聖ルシアの行列が受賞者の宿泊するホテルの部屋を訪問してコーヒーとサフランパンを持ち込み、歌を披露することが恒例行事となっています。実は当初はサプライズで訪問をして受賞者を驚かせていましたが、ある年の受賞者がこのことに動揺し本気で怒ってしまったことから、今ではこのイベントについて受賞者に事前に知らせるようになりました。

main_003_sweden23 商店街を練り歩く聖ルシアの行列
Photo:ofia Sabel/imagebank.sweden.se

main_004_sweden23幼稚園やプレスクールでは欠かせないルシア祭のイベント
Photo:Emelie Asplund/imagebank.sweden.se

main_005_sweden23 老人ホームへも聖ルシアの行列が訪問しコーヒーとサフランパン、ジンジャークッキーを配ります
Photo:Cecilia Larsson Lantz/Imagebank.sweden.se

main_006_sweden23サフランブレッドはルシア猫を意味すルッセカッテル(Lussekatter)と呼ばれています
Photo:Maskot/Folio/imagebank.sweden

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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