「森のしあわせ通信」Vol.6 スウェーデンの冬支度

この記事の目次

スウェーデンの冬支度

2021年も早いもので残り3か月ほどとなりました。日本はこれから秋深まる季節、過ごしやすい日が続き、美味しいものが実り・採れ、読書や芸術鑑賞、スポーツにも良いシーズンです。スウェーデンを始めとする北欧はというと、8月半ばからすでに秋めいた雰囲気が漂います。
そして学校がスタートし、新学期が始まります。ピカピカの一年生の誕生です。北極圏ではそろそろオーロラ鑑賞のシーズン到来。真冬ほどではないにしろ、いよいよ寒い季節の始まりといっても過言ではありません。雨が続いて日に日に冷え込む日が多くなり、日照時間もみるみる短くなって、気持ちが内に向く時期です。人生はなんと素晴らしいんだろう…そんな風に感じていた一年で最も過ごしやすく心地よい夏が終わって、耐え忍ぶ長い冬がまた来る…という具合に感傷的でメランコリックな時でもあります。


002_mori_hokuou_Vol6リノベーションや木工芸はスウェーデンの人にとってお手の物
Photo:Tina Stafrén/imagebank.sweden.se

一年のうちで夏を最高の季節だと考えるスウェーデンの人々にとって、そんな9月はある意味で新しい年の始まりとも言えます。来年の夏を目指して、これからやってくる寒くて暗いシーズンに向けて冬支度をする時なのです。麦の収穫時期であり、ブルーベリーやきのこなどの森の恵みが顔を出す頃で、9月後半から10月はムース(ヘラジカ)ハンティングの季節となります。たくさん採れたそれらの多くは冷凍しておき、冬の間も食べられるように保存しておきます。

その昔、北部スウェーデンの人たちは、数家族分のパンを冬の間中食べることができるよう、麦の収穫が終わると、村にあるパン小屋にみんなで集まって、大きな窯で大量に焼いていたと言います。そして人が一人入るほどの大きな木箱に長期保存していたそうです。今でこそ物流や保存技術、製造技術などの発展によってこのような仕事はなくなりましたが、今日でも受け継がれている北部で主流のパン「トュンブリョード(Tunnbröd)」が薄くて乾燥しているのは冬の間、長期保存することができるためというのが理由の一つです。このように秋はこれからやってくる長い食糧不足の時期に備えて、次の夏までをしのぐための準備期間というイメージが根付いているのです。

そんな秋深まるスウェーデンではこれからやってくる長い季節の始まりにもう一つやることがあります。夏に比べて家の中にいる時間が長くなるため、リノベーションのシーズンとしても最適なのです。家の中にこもりがちになって人と会うことが減り、クリスマスまでは来客も少なくなるため、室内の内装工事は秋に行う事が多いのです。スウェーデンにも工務店業を営む会社はありますが、日本のように多くなく、リノベーションであればたいていの人は自分で改装工事を行います。床板の張り替えや壁のペンキ塗りは当たり前のことで、システムキッチンの導入、電気の配線に至るまで自分たちで施工する人もいます。おおよそこのような仕事に必要な工具は大体の家に揃っていて知識もしっかりとあり、地域のホームセンターに行けばプロから情報がもらえます。日本と同様にテレビのリノベーション番組も人気です。インテリア雑誌を片っ端から読み、自分たちが好きな雰囲気やメーカーを選びながら計画を立てることにも楽しみを見出すスウェーデンの人々からは、日々の暮らしをいかに大切にしているかがうかがえます。

子供部屋をゲストルームにするために、可愛らしい色が塗られていた壁をシックで落ち着きあるカラーに塗装し直したりするだけでなく、ダイニングとリビング2つの部屋を1つにして、広いリビングダイニングとして現代の住まいにあった間取りにしてみたりと、かなり大掛かりな作業を行うことも少なくありません。老朽化や家族構成、暮らし方に変化があれば、その時々に応じた最適な間取りや内装に作り直します。そんな時にたまたま来客があったとしても、改装中の剥き出し状態をあえて見せて、その準備や経過状況を伝え、図面やイメージ画を見せながら完成形を話して、意見を言い合ったり情報交換をしたりします。

さすがに日本では床を張り替えたり、2つの部屋を1つにしたりすることはハードルが高いですが、壁紙が主流の日本でも、最近では既存の壁紙の上から簡単に貼れるウォールペーパーが売られていたり、壁紙の上から塗れて身体にも悪影響のないペンキが販売されていたり、気軽なリノベーションが可能になりました。季節に合わせてちょっとした変化を楽しみたければマスキングテープを上手に活用するだけで、空間の印象が随分変わります。家具の位置を変えたり、ラグを敷いてみたり、カーテンを取り替えるだけでも、気持ちに変化をもたらします。

今あるものに自分を適応させるのではなくて、自分にあった心地よいと感じる状態に可能な形で変化させてみる、というのがスウェーデンの人たちのインテリアと暮らしに対する考え方です。秋深まるこの季節、まずは秋の夜長にインテリア雑誌を見て楽しみ、ほんの少しでもいいなと思ったら、それぞれのアイデアで、その可能性に挑戦してみてください。きっとおうち時間がより良いものになることでしょう。

003_mori_hokuou_Vol6 スウェーデン北部に伝わるパン小屋で作るトュンブリョード
Photo:Ted Logart/imagebank.sweden.se

004_mori_hokuou_Vol6マスキングテープを活用してプチリノベしたグリーンウォールの子供部屋。ウォールステッカーやモビールを使うと、より遊び心あふれる雰囲気に
Photo:IBEACON

005_mori_hokuou_Vol6 String®などの棚のディスプレーを変えるだけでも季節感が生まれます
Photo:IBEACON

006_mori_hokuou_Vol6窓枠にレールのリボンをつけるだけでも印象が変わります
Photo:IBEACON

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

< Vol.5 スウェーデン流のんびりゆったりな週末の始まり  Vol.7 心地よい空間作り−照明の上手な使い方> 

  • メルマガ登録