「森のしあわせ通信」Vol.2 サマーハウスで夏の日々

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サマーハウスで夏の日々

もうすぐ一年で一番日照時間が長い夏至がやってきます。今年のそれは6月21日です。北極圏で見られる白夜まではいかないまでも、首都ストックホルムでは日の出が午前3時30分ごろ、日の入りが午後10時10分ごろ。夜遅くまで太陽が沈まず過ごしやすいこの時期は、スウェーデンの人々にとって一年で最高に楽しく幸せな時です。長くて暗く寒い冬をじっと耐え忍んできた人々の心は、この夏至の日が近づくにつれて解放されていき、気持ちのボルテージが最高潮に達します。太陽もスウェーデンの人々の心も一年で一番明るく輝き、日本のじめじめした梅雨とは真逆です。子供達はというと、6月初旬から始まる夏休みに心躍るシーズン。この夏休みは8月半ばまで約2ヶ月間続きます。そんな大人も子供も気分が大盛り上がりのとき、多くの人は家族で何度もサマーハウスに出かけ、自然を満喫しながらそこで過ごす時間を楽しみます。                                                                                                        

002_mori_hokuou_Vol02夏の食事は屋外で
Photo:Anna Hållams/imagebank.sweden.se

サマーハウスと言ってもスウェーデンのそれは一部の人が所有する特別なものではありません。一般の人のほとんどが住居とは別に、森や湖の畔など自然の中に一軒家を所有しています。新たにサマーハウスを建てる人もいますが、多くは代々受け継いできた古い家を親戚みんなで共有して管理しています。自宅から車で数十分の場所にサマーハウスがあることも珍しくありません。夏休みだけでなく週末や祝日など気候の良い夏の間は、何度もこのサマーハウスに通います。日中は湖で泳いだり、セーリングに出たり、釣りをしたりして、森と湖に囲まれながら沈まぬ太陽のもと自然の中でのんびりと過ごすのです。

サマーハウスの起源は遡ること17世紀、国から功績を挙げた軍人に、ソルダトルプ(Soldattorp)と呼ばれる高さ約2m、広さ8×4mほどの間取りの戸建て住宅を分配した制度に始まります。当時はそこを住居としていましたが、時が経つにつれて性能の低いその小屋は温暖な夏の間だけ使われるようになり、サマーハウスを所有する文化に発展しました。この制度は1901年まで続きましたが、今でもその当時の古い建物を夏の家として使っていることが多く、そのため手洗いは外にあって汲み取り式、極寒のスウェーデンにも関わらず窓は一層ガラスなどというところが少なくありません。そこで自分たちの手で改装を繰り返し、趣あるその建物をみんなで大切に維持しながら、少しばかりの不自由さえも楽しんでいるのです。

親戚同士でサマーハウスを共有していると言えども、やはり主な管理は一番近い家の家族が行います。夏は外で過ごす時間が長いので、大勢が集まるその日のために、屋外の手入れは特に重要です。庭を囲む柵のペンキを塗り直したり、野菜を植えたり、花の種を撒いたり、芝刈りをしたりして、みんなが快適に過ごせるよう庭の手入れは怠りません。スウェーデンの冬はとにかく寒くてとても長いので家にこもりがちです。一年のうち外で過ごせる時期は限られているので、夏の間スウェーデンの人々はとにかく屋外にいることを好みます。だから庭もとても重要なリビングというわけなのです。

また電気や水道が通っていないこともしばしばあるサマーハウスでは、簡単で美味しい料理が求められます。出来るだけ水を使わないよう皿が汚れにくいもので、ゴミも極力出さないようなもの、自宅で下準備できるものがポイントで、そうなると朝食やランチはスウェーデンの定番オープンサンドとなります。サマーハウスに向かう途中に立ち寄って購入した新鮮なパンを、横半分にカットしてパンカゴに入れると、自宅で切ってきたパプリカやきゅうり、トマトなどの野菜を皿に移し替え、濃厚なバターとチーズ、ハムとともにテーブルに並べます。自分の皿の上で各々好きなようにオープンサンドを作っていくというシンプルな食事ですが、卓上には赤や緑や黄色の彩りで華やぎ、とても贅沢な雰囲気になります。親戚一同や友人たちが集まるときは、豪快にバーベキューをすることが多く、肉やソーセージ、魚などの魚介類、野菜をすべてグリルで調理して、あとはパンとチーズがあれば、簡単で美味しいディナーの完成です。夜遅くまで太陽は沈むことがなく、周りには誰もいない静かな森の中で心通う人と一緒に過ごす時間は、何物にも代えがたい幸福な一時です。スウェーデンの人たちはこの幸せをかみしめながら、一年で最も過ごしやすい最高の夏を満喫します。

真夏の日本は外で過ごすことはなかなか難しいですが、例えば梅雨までの初夏、ちょうど今の季節は庭やテラスで過ごすのに最高のシーズンです。テーブルを外に出しクロスを広げて、コップに花を一輪、それだけで豊かな気持ちなります。テーブルを外に出すことができなければ、敷物を敷いてクッションを並べるだけでもワクワクするような空間が出来上がります。外であってもそこはリビングであると捉えると、色々なスタイリングが思い浮かんでくるのではないでしょうか。あとはスウェーデンのオープンサンド手法を真似て、美味しいパンと生野菜、バターとチーズとハムを準備するだけで立派な朝食やランチに。時には手抜きだけど夕食にもおすすめです。お酒を飲む方にとってはアペリティフとしても最高です。決して手の込んだ料理ではないけれど、心地よく素敵な雰囲気があれば、贅沢な気持ちになるはずです。スウェーデンの人々が何気なく実践しているアウトドアリビングでの過ごし方、これこそがスウェーデンのおうち時間そのものと言えます。

003_mori_hokuou_Vol02 テラスもリビングの一つ
Photo:Patrik Svedberg/imagebank.sweden.se

004_mori_hokuou_Vol02アウトドアリビングで読書の時間
Photo:Doris Beling/Folio/imagebank.sweden.se

005_mori_hokuou_Vol02 夏は頻繁に庭でバーベキュー
Photo:Vilhelm Stokstad/imagebank.sweden.se

006_mori_hokuou_Vol02簡単で美味しい魚介の包み焼き
Photo:Anna Hållams/imagebank.sweden.se

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

<Vol.1 インテリアの衣替え   Vol.3 自然とともに生きる暮らし − 家の中にも植物を>

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