インテリアの衣替え
日本は過ごしやすい季節になりました。天気が良く湿度が低くて爽やかで、日照時間も随分と長くなり、それはまるで北欧の夏さながら、心が解放され外へ出かけたくなる今日この頃です。とは言え昨今の状況下、なかなか外出はしにくく、ストレスを溜めがちな毎日なのではないでしょうか。そんな春先、北欧ではお部屋のインテリアを変え家の中を心地よくして、心のバランスを整えようとします。そうすることで人の心理や行動にも変化が生まれ、毎日の暮らしがより良くなることを北欧の人たちはとてもよく知っています。
窓を開放して自然豊かな景観をインテリアとして取り入れています
Photo:Patrik Svedberg/imagebank.sweden.se
スウェーデンでも4月になると少しずつ暖かい日が多くなり、日照時間が大幅に増えます。首都ストックホルムの周辺では日没は19時を過ぎた頃で、日中は太陽が燦々と降り注ぎ、気持ちはとても開放的になります。外で過ごす時間が増え、ランチをテラス席などの屋外で食べることが多くなる季節ですが、とは言えまだまだ朝晩は冷え込み温かい服は手放せません。心は春を迎えていても着ている服はまだ冬物……そんな少し気持ちが先走る4月、スウェーデンではインテリアを冬から夏の様相に模様替えします。それはまるでワードローブを冬物から夏物にかえる日本の衣替えと似ています。冬の間しまっておいた夏のインテリア用品を収納庫から引っ張り出し、先走るワクワクした気持ちに合わせて家中をスタイリングしていくのです。
最も大きく雰囲気を変えるカーテンは真っ先に手を付けるアイテムです。防寒の用途も兼ね備えていたぽってりと厚みのある生地と暖色でデザインされたそれをカーテンレールから外して、風が吹くとふわりとなびくような軽やかな綿素材のものを取り付けます。光は完全に遮断せず、そこから透けて見える光の陰影をも楽しみます。北欧の人々は光への意識がとても高く、室内に少しでも多くの外光を取り入れるために大きな窓を設けたり、そもそも寝室などのプライベート空間以外はカーテンをつけません。外から部屋を見られることにあまり抵抗はなく、むしろこだわりのインテリアを見せることで、道行く人を楽しませたいという思いがあります。そのためカーテン一つとっても、それは室内を隠すものではなくインテリアを楽しむ要素の一つと考えているのです。
次に手をつけるのはクッションカバー。ソファやイージーチェアに置かれた数々のクッションは冬用の温かくモコモコしたものから鮮やかな色や涼しげな素材のものに入れ替えます。床に敷かれたカーペットは外してウールからコットン素材のものにしたりフローリングのままにしたり、壁にかけられている絵やポスターは位置を移動させたりします。
また家の中にいてもまるで屋外にいるかのように自然を身近に感じられるよう窓辺やチェスト、テーブルの上をたくさんの色鮮やかな草花で飾ります。同じ陶器の花瓶でも落ち着いたアースカラーの焼き物から白い釉薬を纏ったピッチャー型のものに変えて色とりどりの春の花を生けるだけで、空間の雰囲気はガラリと変わります。
このようにシーズンに合わせてインテリアを変えることは、スウェーデンの人々にとって家を快適にするために欠かせない季節の行事とも言えます。家族やパートナー、友人とコーヒーを飲みながら意見を交わし、ずっと憧れていたメーカーのもの、長い間吟味していたものをこのタイミングで購入する人も多くいます。まさに春物の服を新調する状況と同じです。
スウェーデンのようにインテリアのあらゆる箇所を衣替えすることは難しくとも、明るく前向きにしてくれるような飾りや小物、ファブリックをこの機会に取り入れてはいかがでしょう。まずは変化させたい箇所を見つけて、そこに足りない素材や色を見出しましょう。またフラワーショップで自分の感性に響くお花を一輪探してみてください。そんなことを考えているとおうち時間がより楽しくなるかもしれません。
籐の椅子からシープスキンを外してシートクッションに、ラグやカーテンは涼しげな素材に変えるだけで夏の装い
Photo:Emilia Hoisko/Visit Finland
テーブルの上にも季節の花を。エレガントなものより野に咲く草花を選ぶとリラックスした雰囲気に
Photo:Emilia Hoisko/Visit Finland
小さなコーナーにはクリアガラスの一輪挿しに小さなグリーンを。水の煌めきと相まってフレッシュな印象が生まれます
Photo:Amanda Westerbom/imagebank.sweden.se
窓辺に置かれた草花が外を歩く人を楽しませます
Photo:Emilia Hoisko/Visit Finland
堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
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