「森のしあわせ通信」Vol.3 自然とともに生きる暮らし − 家の中にも植物を

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自然とともに生きる暮らし − 家の中にも植物を

スウェーデンは多くの森や資源を有する、ヨーロッパで5番目に大きな土地を持つ国です。日本の約1.2倍の国土面積に、東京都の人口よりも少ない約1000万人が住み、国土の6割が森林、そして1割は湖という自然豊かなところです。スウェーデンの人々は自然をとても身近な存在として捉えていて、その近くで生きることが何にも変え難い幸せであると思っています。

スウェーデンには自然享受権(Allemansrätten)という独自の法律があり、例えその森や土地が誰かの所有物であっても、誰もがそこに出入りし自然を自由に楽しむことができます。それは同時に自然の厳しさや自然保護に対する責任を学ぶ基盤ともなっていて、故にスウェーデンの人々は最大限の敬意をもって自然に接しています。例えば「寒いのが悪いのではない、着ている服が悪いのだ」ということわざがあるくらい、スウェーデンの人々は自然を第一に思い、その上で自分たちの日々の営みがあると考えています。また車を停車している状態で、1分以上エンジンをかけたままにしておくのは道路交通法違反に当たります。排気ガスによって自然に悪影響を与える可能性があるからというのがその理由で、極寒の真冬にエンジンを温めるため、車内を温めるためという理由があっても決して良しとされていません。 
                                                                                                              

01_mori_hokuou_Vol03草花や動物が描かれた鮮やかなスウェーデンのファブリック
Photo:IBEACON

都会の真ん中に住んでいても自然はとても近くにあり、数分歩けば森や湖、自然豊かな公園に出会えます。夕方早くに仕事を終えるスウェーデンの人たちは、太陽が夜遅くまで沈まない夏の時期、仕事が終わってからも自然を感じられる場所でそれぞれのアクティビティを楽しみます。緑が生い茂る公園でピクニックをしたり、湖のほとりで散歩やジョギングをしたりして、冬場ではできない外での遊びを満喫します。

そんな自然が大好きなスウェーデンの人々は、家の中にもたくさんの植物を取り入れ、季節に関わらず自然を感じられるようにしています。旬の切り花をガラスの花瓶に入れて、ソファ横のサイドテーブルやコーヒーテーブル、窓辺やキッチンに置くのは日常的です。大きなグリーンを部屋の一角に置き、その周辺に小さな植物を飾って、まるで森のような雰囲気を作るのも上手です。それぞれの植物に極端な高低差がある時は、空間全体と植物とのバランスを考えながら、スツールやサイドテーブルで高さを持たせて小さな鉢を飾ります。

インスピレーションの源ともなる自然といつも一緒にいたいと考えるスウェーデンの人々は、植物を家の中に置くことは心に調和をもたし、暮らしの質に影響があると考えています。自然との深い繋がりによって心が豊かになり、その豊かさが心のゆとりとなって、日々の一つひとつの決定ごとに大きな影響を及ぼすと信じています。そのためスウェーデンで好まれる日常の花は絢爛豪華なものではなく、庭や野原に咲いているような素朴なものが多いです。植物そのものの美しさを楽しみ、室内に華やかな雰囲気を作ると言うよりは、鮮やかさや明るさ、穏やかさや豊かさをもたらす役割を植物に求めます。家の中を森や緑豊かな公園により近づけるための暮らしの手法や知恵と言ってもよいでしょう。そのため花を生けたりグリーンを育てたりするものは、素敵な花瓶でなくても、モダンでおしゃれな鉢でなくてもいいのです。頑張る必要は全くなくて、ピッチャーでもティーポットでも、空き瓶や空き缶でも、身の回りにあるものをうまく活用して、家の中でもより自然を感じるようにするのが、スウェーデン流の植物との向き合い方です。

また本物の植物だけではなくファブリックに様々な草花、動物が描かれたものを好んで飾るのも、この自然に対する思いがあるからです。スウェーデンを始めとする北欧の家具には飽きの来ないシンプルでオーガニックなものが多いですが、色鮮やかな植物柄のファブリックや草花との相性が良いということがその理由の一つでもあります。家具やインテリア全体がシンプルであっても、草花やファブリックを上手にアレンジすることで、個性や季節感は十分に表現できます。

このような植物使いこそがスウェーデンに見られる素敵なインテリア作りのコツの一つで、スウェーデン人の美意識であり、スウェーデンデザインの本質とも言えます。植物は日常生活の一部分であり、私たちのおうち時間をより豊かにしてくれるものなのです。

02_mori_hokuou_Vol03ファブリックで個性と季節感を表現
Photo:IBEACON

03_mori_hokuou_Vol03クラシックな家具と鮮やかなファブリックの組み合わせ
Photo:IBEACON

04_mori_hokuou_Vol03トレーを壁に引っ掛けておくロープにも可愛らしい花が
Photo:IBEACON

05_mori_hokuou_Vol03花瓶がなくてもアイデア次第で素敵なグリーンのオブジェが完成
Photo:IBEACON

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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