無料の学校給食
スウェーデンでは幼稚園、小学校、一部の高校において、給食が提供されます。学校にはランチルームがあり、昼食時はクラスのみんなでランチルームへ出向き、教員も伴って一緒にお昼ご飯を食べる場合が多く、主にサラダなどの野菜、肉や魚のメイン、じゃがいもやパスタ、米などの主食が提供され、子供たちが自ら取り分けます。これらのメニューとは別にスウェーデン特有のクリスピーパン “クネッケブリョード”やバターは常備され、またランチルームには必ずミルクサーバーが設置されています。このような給食は今日約140万食、スウェーデンの全国の学校で無料提供されています。
スウェーデンでは1842年に4年間の小学校制度の採用が決定し、誰もが教育を受けられるようになりました。当時は給食制度がなく、家から弁当を持参するか、休憩時に一度自宅に帰り昼食を食べる必要がありました。しかし多くの子供たちの家庭では食料を十分に買うことができず、また一部の子供たちは家から学校までの道のりが長く、空腹状態の生徒が数多く存在していました。そんな中、お腹を満たしている子供たちの成績が空腹状態の子供たちより良いという事実が判明したのです。このため、いくつかの学校で給食を導入し始めたというのがスウェーデンの給食の始まりです。学校から支給される給食を食べることができたのは主に貧しい家の子供たちで、メニューはおかゆ(オートミールなど)と牛乳といった最低限の栄養が摂れる質素なものでした。1800年代後半になると、給食を導入する学校が全国で増え始め、おかゆに加えてスープも出されるようになりました。とは言え、この制度を導入していた学校はまだまだ少なく、多くの子供たちは簡単な食料を持参したり、家に帰って食べるなどの必要がありました。
1912年、ストックホルム市議会で学校給食の無償化について議論が交わされました。当時、ストックホルムの約26,000人の学童のうち、約2,300人だけが無料の昼食を得ており、その他の生徒たちは各家庭で昼食を準備していました。この状況を十分ではないと考えた社会民主党のフレドリック・ストローム(Fredrik Ström)は、給食を無償化するための資金投入を提案したのです。1937年以降、各自治体は無料給食をそれぞれの学校に寄付し、これまで以上に多くの子供達に食料が行き渡るよう尽力しました。子供一人当たりの食費は最大で当時30オーレ(日本円で33円ほど)で、食事を温めるための薪以外の全てのコストが含まれ、食器やカトラリーは各自自宅から持参する仕組みでした。
1945年、スウェーデン政府は、無料の学校給食を提供する自治体が給付金を受け取ることができる制度の導入を決定しました。食事が温かく、牛乳、パン、バターがメニューに入っていれば、自治体は助成金を受け取ることが可能となり、より多くの生徒たちが給食を得ることとなりました。しかし提供が義務ではなかったため、全ての子供たちがこの恩恵を受けることはできていませんでした。
1947年から1967年にかけて、給食制度を導入する学校はこれまでの65%増加しました。全生徒の半数以上が学校で無料の食事を得られるようになり、より多くの学校がキッチンとダイニングを学校内に設けることとなりました。多くの学校に給食が導入されると同時に、1950年代には冷凍食品が、1970年代には調理済み食品が搬入されるようになり、学校のキッチンでは加熱する程度の作業となり、これに伴って食品を温かく保つための規則を定める新しい法律ができました。食品は60度以上で最大2時間保温する必要があり、今日も同じルールが適用されています。
1997年、スウェーデンのすべての自治体で義務教育の対象となる学校に給食を無償で提供することが可決されましたが、高校は除外されることとなりました。そのため高校では各自治体によって無料提供にするか、それぞれの生徒が自費で食料を購入するかに分かれています。
2000年代に入ると、社会のニーズに応じて給食にも変化が訪れます。メニューは少なくとも2種類となり、うち1つはベジタリアン料理です。また昨今では移民の子供たちが増加したことにより、宗教的な習慣にのっとった料理を提供する学校も増え始めています。これらのメニューは各自治体や学校によって、生徒の状況に応じて決定する権利が与えられています。
給食の定番、ポテトパンケーキとベーコン リンゴンベリー添え
Photo:Magnus Carlsson/imagebank.sweden.se
前回のコラムに続き…木曜日はエンドウ豆のスープ
1930年代の当時の給食メニューの記録が残っています。月曜日はフルーツスープ、パンとバター、そしてチーズ。火曜日はレバーシチューにパンと牛乳。水曜日は魚のグリル、パン、バター、牛乳。木曜日はエンドウ豆のスープとパンと牛乳。金曜日はフルーツピューレか砂糖がかかったグラハム粉のお粥、そしてパンとバター、牛乳。土曜日はお米のミルク粥とレーズン、パンとバター、チーズとなっています。
2015年のある日の給食メニューでは、月曜日はポテトパンケーキ、ベーコンまたはブラッドプティング(血のソーセージ)、根菜の炒め物、カッテージチーズ、リンゴンベリー、フルーツ。火曜日はタイ風チキン焼きそば、またはタイ風ベジタリアン焼きそば、チリドレッシング。水曜日はミートソースとオーガニックスパゲッティ、またはトマト入りにんじんスープとトッピングにソフトチーズ。またはレンズ豆と根菜ソースのオーガニックスパゲッティ。木曜日はエンドウ豆のスープまたはベジタリアンのエンドウ豆スープ、焼きたてのパン、そこにデザートのパンケーキ、ジャム添え。そして金曜日はイタリア風バジルソースの魚料理とローストポテト、またはほうれん草とカッテージチーズ入りポテトグラタン、とお腹の空きそうになるメニューが並んでいます。
1930年のそれに比べる昨今の給食は、とても豪華で種類も豊富、またベジタリアンメニューや世界の料理が見られます。しかしエンドウ豆のスープは今も昔も木曜日のメニューに健在です。
お馴染みミートボールも給食の定番です
Photo:Daniel Herzell/imagebank.sweden.se
いわゆるニョッキに豚ミンチなどを詰めて茹でたクロップカーカ(Kroppkaka)は給食にも登場するスウェーデンの伝統料理
Photo:Tina Stafrén/imagebank.sweden.se
2009年に全国で最優秀と称されたある学校の給食。地元の多種多様な食材を使った内容
Photo:Miriam Preis/imagebank.sweden.se
クネッケブリョードは必ず置かれている常備食です
Photo:Carolina Romare/imagebank.sweden.se
堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
< 2020年 3月号 木曜日のエンドウ豆スープ 2020年 5月号 60-70年代テキスタイルの再生プロジェクト >