「森のしあわせ通信」Vol.5 スウェーデン流のんびりゆったりな週末の始まり

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スウェーデン流のんびりゆったりな週末の始まり

スウェーデンでは季節に関わらず週末は家族とゆっくりと過ごす日という意識を持つ人が多く、最近でこそ都市圏ではお店もやっていますが、それでも開店時間が午後から夕方までと短かったり、国営の酒屋が日曜日はお休みだったりすることがあります。地方に至っては土日は完全に休業する店舗が多く、スーパーでさえも営業時間が短縮されています。そのため多くの人は金曜日の午後から夕方にかけて週末の買い出しに出かけます。スウェーデン人は7時などの早朝から仕事を開始するため、15時-16時くらいにはおおよそ勤務を終えることができるので、時間に余裕を持って週末の買い物に出かけることが可能です。企業によっては金曜日の午後を休みにしていることもあります。

このような状況ゆえ、スウェーデンの週末は金曜日の午後から始まるといっても過言ではありません。フリーダグスミュース(Fredagsmys)と言う「金曜日の心地よい時間」を意味する言葉があるほどです。夜の時間帯を指す言葉ですが、少しおしゃれをして自宅に誰かを招き、日頃よりも豪華な夕食を食べたりするのではなくて、ポテトチップスなどのジャンクフードを片手に、テレビや映画を見ながらだらだらまったりと過ごすイメージです。家族や友人など気兼ねなく過ごせる人たちとのひとときとされていて、誰にとっても週末と同じくらい待ち遠しい時間です。

01_mori_hokuou_Vol05ピザもフリーダグスミュースの定番メニュー
Photo: Susanne Walström/imagebank.sweden.se

このフリーダグスミュースという言葉は1994年に新聞に掲載されて以降スウェーデンで定着し、2006年にスウェーデンアカデミー発行の辞書に初めて登場しました。もともと一週間のうちで日曜日だけが仕事の休みであった19世紀から20世紀初頭に、平日とは異なる”日曜日の夕食”と”日曜日の自由”という言葉が生まれ、その時間は”家族が集う”ものという心象と概念が生まれました。

1960年代後半になると学校週5日制が導入(日本では1992年に段階的に導入され、2002年に完全学校週5日制を実施)されたことを受け、人々は金曜日ないし土曜日の夕食を”クヴェルスゴット(Kvällsgott=夜の美味しいものという意)“と呼んで、”日曜日の夕食”と”日曜日の自由”と重ね合わせ、夕食の後に簡単に準備ができる軽食やお菓子、例えばチーズとビスケットやスポンジケーキを食べながら家族と共に過ごすという習慣が生まれました。

そもそもスウェーデンにはテレビを見るためのテレビルームという贅沢な空間が多くの家にあります。決して裕福な家庭の住宅事情ではなく一般的なことであり、10帖程度の部屋に大きめのテレビ、そしてその向かいに1人掛けのアームチェアや数人掛けのソファが置いてあって、その前にはテーブルが置かれています。スウェーデンの人たちにとってテレビというものが日常の生活とは切り離された存在であり、テレビを見ながら食事をするという行為は、我々日本人が思い描くようなものではなくて、何か特別なこととして捉えられています。この行為が1960年代初頭にスウェーデンで流行となりました。テレビを見ながらコーヒーや紅茶、お酒を飲んだり、映画を見ながらケーキやスナックを食べたりすることが広まっていきました。

こうしてフリーダグスミュースは”日曜日の夕食”と”日曜日の自由”、テレビの前で食事をするという流行り、そして学校週5日制の恩恵を受け、今を生きるスウェーデンの人々にとって、なくてはならない大切な行事となったのです。

この特別な時間に食べる簡単で美味しいレシピ集が登場するほど、フリーダグスミュースはスウェーデンに定着しています。フリーダグスミュースで食べるものはジャンクフードが多く、フリーダグスミュースによる生活習慣病を懸念する声がある一方で、健康志向が持て囃される昨今において「時々は良いんじゃない!」という良い意味でのストイックさを軽減するエフォートレスな動きにも繋がっていると言います。

またフリーダグスミュースは食後にまったりのイメージですが、夕食と食後の軽食をミックスさせて、夕食からフリーダグスミュースをスタートすることがあります。こんな時によく食べられるのが実はタコスです。とても意外かもしれませんが、スウェーデンの若者の間では定番のホームパーティ料理で、日本のスーパーでも購入可能なオールドエルパソ(Old El Paso)の商品が、地方の小さなスーパーにも並んでいます。人数が多くても準備が簡単で、野菜もたくさん取れて、ボリューミーで美味しく、テーブルの上も華やかになります。

スウェーデンの人々にとって大切なフリーダグスミュースについて、様々な学者たちが研究に取り組んでいます。ソファに家族が集まって座り共に過ごす時間は肌と肌との接触が多くなり、子供と親のコミュニケーションに良い働きを生むとされ、子供のオキシトシンというホルモンを増やし、落ち着きをもたらすと研究結果で示されているなど、子供たちの心理に良い影響があるとされています。

外食や旅行に出かけることが難しい昨今、金曜日の夜はいつもとは違う少し肩の力が抜けたメニューで、ソファでまったりフリーダグスミュースの時間を過ごすのはいかがでしょうか。きっと素敵な週末の始まりになることでしょう。

02_mori_hokuou_Vol05 週末の買い出しは金曜日中に
Photo: Miriam Preis/imagebank.sweden.se

03_mori_hokuou_Vol05
週末は家族との憩いの時間
Photo: Ulf Huett Nilsson/imagebank.sweden.se

04_mori_hokuou_Vol05 フリーダグスミュースは子供と親のコミュニケーションに良い働きがあると研究結果で示されています
Photo: Lena Granefelt/imagebank.sweden.se

05_mori_hokuou_Vol05肌と肌との接触は子供のオキシトシンというホルモンを増やし、落ち着きをもたらすとされています
Photo: Lieselotte van der Meijs/imagebank.sweden.se

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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