スウェーデンのお葬式とお墓参り
日本では9月のお彼岸が終わり、冬に向けていよいよ秋が深まり始める季節となりました。スウェーデンでは11月最初の土曜日に万聖節を迎えると、この日は祝日となり、お墓にキャンドルやお花を供え故人を偲びます。それはまるで日本のお盆やお彼岸のような感覚です。日が暮れかけた時間に出向く人も多く、闇の中にあるお墓に転々とキャンドルが灯されて、肌寒い澄んだ空気と相まってとても美しい光景が広がります。
世界遺産にもなっている森のお墓スコーグスシュルコゴーデン(Skogskyrkogården)に象徴されるように、スウェーデンでは人は死後に森に還るという死生観があります。スウェーデンの葬儀において、特に決まりはありませんが、多くの人は人が亡くなると棺に入り2週間ほど保管され、その間に家族は身近な人たちにお別れの知らせを送ります。地域の人たちに向けて地方紙に情報を載せることも可能です。その後、葬儀が執り行われ、親族や親しい関係者が集まりお別れをします。多くのスウェーデン人はスウェーデン教会に所属しているため、式は教会で行われることが一般的です。日本でもキリスト教では各宗派にのっとって、スウェーデンの葬儀と近い方法をとることがありますが、スウェーデンの葬儀では教会が故人を偲び、スウェーデン国旗を半旗にして掲げてくれます。故人の親戚や知人たちが教会に集まると、祈りの言葉や賛美歌の歌詞が載った当日のプログラムが手渡され、その内容に沿って葬儀が進められていきます。日本のように喪服を着る習慣はないので、各々好きな服を着用しますが、さすがに華やかな柄や色を着ている人はみかけません。また最近では日本と同様に火葬されることが一般的です。集まった人たちはそれぞれ故人へのお花を用意し、葬儀の終盤になると故人が入る棺に捧げます。この時の花はバラが主流ですが、決まりはないので、故人が好きだった花を捧げる人もいます。最後に昼食会場へ移動して、シンプルな料理、例えばスウェーデンの定番パーティ料理であるサンドイッチケーキなどが振る舞われ、または故人の家族の自宅でケーキとコーヒーをいただき、故人を偲び、お葬式は終わります。
スウェーデンでは所属している教会に毎月教会費を支払うのですが、ここに葬儀費用が含まれているため、葬式の際の費用負担が少ないです。また教会に所属していない人も国や会社から徴収されるので、教会に所属している人たちと同じ条件で葬式を執り行うことができます。国籍や宗教に関わりなく、国に登録されている故人は葬られてから25年間は税金によって墓を維持でき、その後は地方によって有料、無料で引き続き墓を維持することが可能で、更新されなければ墓はなくなり、その土地の使用権は他の人へと渡されます。個人の墓もありますが、多くは日本と同様に夫婦か家族で同じ墓に入ります。事実婚の制度が整っているスウェーデンでは、名字が異なっていても同じ墓に入ることが可能です。
スコーグスシュルコゴーデン内にあるウッドランド墓地は、近代建築の最も重要な創造物の1つと考えられています
Photo:Cecilia Larsson Lantz/Imagebank.sweden.se
森のお墓スコーグスシュルコゴーデン
ストックホルム中央駅から電車で南へ約15分にある森のお墓スコーグスシュルコゴーデンの建設は、埋葬地不足が生じた1900年代初頭にストックホルム市議会によって決定され「風景のある墓地」というこれまでにない全く新しい発想のもとで計画されました。
1914年から1915年にかけて、建設地となるエリアの地形と森林を活かした設計のコンペが行われましたが、そのテーマは建築と芸術を調和させる必要があったため、参加する側にとってはとてもハードルの高いものだったと言います。応募者は国内外から53組集まりました。コンペで優秀賞を勝ち取ったのは若きスウェーデン人建築家グンナール・アスプルンド(Gunnar Asplund)と造園を専門とする建築家シーグルド・レヴェレンツ(Sigurd Lewerentz)の共同応募案でした。
その後約20年をかけてプランが進められた墓地は、最終的にアスプルンドのみが設計を担うこととなりました。また画家で彫刻家のスヴェン・エリックスソン(Sven Erixson)、彫刻家カール・ミレス(Carl Milles)、画家でイラストレーターのオッテ・ショールド(Otte Sköld)などもそのプロジェクトに芸術作品を提供し、礼拝堂やチャペル、メモリアル墓地が自然と調和するよう森の中に美しく点在して建てられ、1940年に基本となる形が完成しました。同年アスプルンドは墓地の完成を見守るかのようにその生涯を終えました。アスプルンド亡き後は、レヴェレンツがランドスケープデザインを引き継ぐこととなりました。その後、彼らの死後も工事は今でも継続的に続けられています。
近代建築の重要な創造物とみなされたスコーグスシュルコゴーデンは、20世紀以降の近代建築としては世界で最も早い1994年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。
万聖節には愛する家族や友人を思い、多くの人がお墓に出向きます
Photo:Cecilia Larsson Lantz/Imagebank.sweden.se
キャンドルの明かりがより一層人々の思いを膨らませます
Photo:Cecilia Larsson Lantz/Imagebank.sweden.se
キャンドルの他にお花や個人が好きだったものをお墓に供えます
Photo:Cecilia Larsson Lantz/Imagebank.sweden.se
スコーグスシュルコゴーデン内にある自然を生かしたモニュメント
Photo:Ulf Lundin/imagebank.sweden.se
堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
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