国営酒屋「システムボラーゲット」
師走が近づくこの季節、会社の忘年会や家族・友人とのクリスマスパーティーなど、多くの人が大切な人と、楽しく賑やかに一年を労う会が催されることでしょう。スウェーデンでもそれは同様で、あらゆるレストランでクリスマスの特別ブッフェメニューが始まり、各企業でも忘年会ならぬクリスマスパーティーが企画され、家庭でも親戚が集まりホームパーティーが開かれることが多くなります。こんな時に欠かせないもの、それはもちろんアルコール。ビールやワインをはじめ、クリスマスに飲むホットワインのグロッグ、クリスマス料理に欠かせないスナップス(じゃがいもの蒸留酒)など、あらゆるお酒が大量に消費される季節となります。
スウェーデンではアルコールの取引に独占権を持つ国営の酒屋「システムボラーゲット(System Bolaget)」のみでアルコールを購入できます。一般的なスーパーやコンビニでもビールは購入できますが、ライトビールと言ってアルコール度数3.5%以下のもののみが販売されています。この「システムボラーゲット」は各街に点在しており現在は約450店舗、その他に約500名のエージェントがいて、近くに店舗がない小さな村や町では電話注文によって宅配される仕組みが整っています。
またストックホルムなどの大きな街ではたくさんの種類のお酒が販売されていますが、田舎の小さな町では在庫しているお酒の種類も少なく、そのため事前にカタログやオンラインで商品を選び注文をして、店舗に届いたら取りに行くというシステムも導入されています。レストランやバーでは大人の目があるため18歳からお酒が飲めますが、「システムボラーゲット」では20歳未満はアルコールを購入できません。
見た目が若い人は店員が必ず身分証明書の提示を求めます。アジア人は世界でも若く見られがちなので、いくつになっても身分証明書が必須な人もいます。
最近都市部では営業時間は平日に比べて短くなるとはいえ、週末も営業している「システムボラーゲット」が多くなりました。そのためストックホルムやヨーテボリなどの大都市に住んでいれば、特に計画を立てずともアルコールを購入することができるようになりました。しかし中小規模の市町村では週末は店を閉めるところも多く、日本のような利便性がないので、平日に週末分の買いだめをする必要があります。スーパーなども週末の営業時間が短いので食材の買い物含め、「システムボラーゲット」への買い物を考慮して、企業によっては金曜日午後の終業時間を早めている会社もあります。
日本では毎日お酒を飲む方が多くいますが、スウェーデンでは週末や特別な時以外は飲まないかライトビール程度で済ませることが多いです。そのため週末のアルコールは、食事をより楽しむためにとても大切と考えられており、会社もその点を考慮している様子がうかがえます。
各種アルコールの相談にものってくれます
Photo:System Bolaget
アルコール規制の歴史
スウェーデンにお酒が入ってきたのは1400年代と考えられており、当時は薬の一種として輸入されていたと言います。その後道徳の観点から幾度かアルコール消費を規制する動きがありましたが、1700年代になると当時の国王が全ての制限を廃止しました。そのため各家庭で食料用のじゃがいもや穀物を用いてアルコールが作られるようになり、1800年代初頭には推定17万5千の蒸溜所が存在したといいます。
1800年代半ばにアルコール規制が始まり、家庭での製造および18歳未満はアルコールを販売することが禁止となりました。この時にスウェーデン中部にある街ファールンでアルコール販売が初めて許可され、バーと小売業を運営する会社が誕生、その後ヨーテボリにも同様の会社が設立されました。
1900年代に入ると第一次世界大戦時にはアルコール飲酒が厳しく規制され、配給される時代へと突入、またアルコール中毒者を厳しく管理する社会が誕生し、配給ノート(Motboken)が作成され個々がどの程度アルコールを入手できるかが定められたノートを持たされることとなりました。この配給ノートは女性が持つことは少なく、そのため女性差別であるとも言われていました。また社会が変化する中で、この配給ノートが社会階級や職業により内容が決定されるようになっていったことも疑問視する人々が増えるようになりました。
最終的に1955年に配給ノートは廃止され、各地方に点在していた認可バーとアルコール販売所が統合し「システムボラーゲット」が誕生しました。現在ではアルコールの製造も以前より自由化され、ワインやウィスキーもスウェーデンで作られるようになりました。レストランでも普及しはじめてはいますが、それでも個人の取引は販売独占権を持つ「システムボラーゲット」のみでしか購入できません。
このマークが目印
Photo:System Bolaget
お酒屋さんでもノンアルコールを薦めるキャンペーン
Photo:iBeacon
1960年代半ばの「システムボラーゲット」の様子
Photo:System Bolaget
1960年代後半の「システムボラーゲット」店内
Photo:System Bolaget
堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
< 2019年10月号 スウェーデンのお葬式とお墓参り
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