みんな大好きプリンセスケーキ
スウェーデンに存在するケーキ屋さん全てで購入できる、といっても過言ではないプリンセスケーキ(Prinsesstårta)をご存知でしょうか。プリンセスケーキはみどり色のアイシングシュガー入りマジパンで全体が覆われ、さらにマジパンで作られた小さくて可愛らしいピンク色の薔薇がちょこんと乗っている、スウェーデンの国民的ラウンドケーキです。色は美しいけれど、ケーキとしていただくには見た目がこってりで、とても甘そうな印象ですが、そのマジパンの中身はというと、スポンジ生地と甘さ控えめのホイップクリーム、バニラクリームが交互に層になったシンプルなもの。そのため意外にあっさりしています。スポンジ生地と生クリームが美味しければ、見栄えも味も各店舗あまり大差はなく、故にお店によっては層にベリー系のジャムを挟むなど、味にオリジナリティーを出すところもあります。多くの店舗では日本でいうところのラウンドケーキ型7号サイズ(直径21cm)や8号サイズ(直径24cm)くらいの大きさで販売されていますが、一人でも食べたい人のために、小さなプリンセスケーキを売っているお店もあります。ただケーキ屋さんに併設されたカフェで食べるものというよりは、やはりホールで買って持ち帰り、自宅で家族や親戚、友人たちとお祝いの日や誕生日に食べることが多く、また事前に注文をして結婚式、そしてお葬式に登場するなど、人生の大切な節目で口にすることが多いお菓子です。オフィスでも社員のお祝いや応援しているサッカーチームが優勝した翌日、会社で喜ばしいことがあった時などは、スウェーデンのコーヒータイム「フィーカ(Fika)」の時間にプリンセスケーキが登場し、職場の仲間たちと食べることがあります。
その歴史は遡ること1929年。当時のスウェーデンの王女たちを教え子に持っていた教師イェニー・オーケストローム-ソデルストローム(Jenny Åkerström- Söderström)がまとめた料理本「プリンセスたちのクッキングブック(Prinsessornas kokbok)」に初めて登場しました。イェニーはこの書籍をプリンセスたちに捧げるために作成したと言います。この本はその後1930年代から1950年代にかけてスウェーデン国内で一般的に出版され、本の中でグリーンケーキ(Grön tårta)として紹介されていました。このレシピブックの中で特にプリンセスたちが好んでいたのが、グリーンケーキだったと言います。そのため後にこのケーキはプリンセスケーキと世間で呼ばれるようになり、スウェーデンの人々にとって身近で特別なお菓子として親しまれるようになりました。
人が集まるお祝いの時もプリンセスケーキは欠かせません
Photo:Tina Stafrén/imagebank.sweden.se
プリンセスケーキ週間
スウェーデンではプリンセスケーキが毎年約50万個売られています。一週間に約1万個のペースです。スウェーデンの人口はおおよそ1000万人なので、単純計算で一年間に20人に1人が購入していると考えられます。ケーキ1個は8等分されることが多いので、2.5人に1人が年に一度プリンセスケーキを食べていることになります。毎年9月の最終週はプリンセスケーキ週間(Prinsesstårtans vecka)とされていて、ケーキ屋さんでプリンセスケーキを購入した場合、その支払い金額の一部である10SEKが、1人用のプリンセスケーキの場合は2.5SEKが、ヴィクトリア皇太子妃基金に寄付されます。ヴィクトリア皇太子妃基金は1997年に開設されたファンドで、障害や慢性疾患を抱えるスウェーデンの子供や青年を対象に、レジャーやレクリエーションのサポートを提供することを目的としている基金ですが、この1週間、ケーキ屋さんは通常の倍のプリンセスケーキを販売するとされており、またヴィクトリア皇太子妃の第一子エステレ王女が誕生した2012年のプリンセスケーキ週間には、スウェーデン中のプリンセスケーキが売り切れたといわれています。 ※1SEK=約11.7円(2019年12月時点)
みどり色のマジパンで覆われ、ピンクの薔薇が載っているのが定番のスタイル
Photo:Jakob Fridholm/imagebank.sweden.se
時々プリンセスケーキはフィーカにも登場します
Photo:Jakob Fridholm/imagebank.sweden.se
スウェーデンのケーキ屋さんはパン屋さんのことで、パン屋さんがケーキも焼いています
Photo:Tina Stafrén/imagebank.sweden.se
パンと一緒にケーキが並んでいるのが、スウェーデンのいつもの風景
Photo:Tuukka Ervasti/imagebank.sweden.se
堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
< 2019年11月号 国営酒屋「システムボラーゲット」
2020年 1月号 スウェーデンの主食 >