「森のしあわせ通信」Vol.7 心地よい空間作り−照明の上手な使い方

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心地よい空間作り−照明の上手な使い方

北欧の冬は寒くて長くて暗く、その中でも特に人々の心理に影響するのが”光”と言われています。スウェーデンの真冬の直射日光の明るさは約1,500ルクスで曇りの日は約300ルクスです。睡眠と覚醒サイクルを調節するメラトニンを分泌するには最低約2,500ルクスが必要とされていて、スウェーデンの真冬の直射日光の明るさはこの最低数値を大きく下回っている状況です。

日本の真冬の曇天の日でさえ約10,000〜20,000ルクスあることを考えると、北欧の冬がどれほど暗いのか想像に容易いのではないでしょうか。またスウェーデンの首都ストックホルムの真冬の日照時間は朝9時半から午後2時半ごろまでで、一般的な会社勤めの人は真っ暗な中で出社し、夕方自宅に帰るころにはすでに日は落ちていて、ほとんど太陽の光を浴びません。こんな毎日を続けると精神疾患を患う可能性が高くなります。実際、季節性情動障害(SAD)に悩む人は人口の約8%いると言われていますが、病院へ行くことをためらう人も多く、病院へ行くほどではないけれど冬場になるとやる気が起こらず疲れやすいという症状を訴える人もいます。そのため北欧では冬の間、医療用のモバイル照明をダイニングに置き、朝食を取りながら光を浴びて体を目覚めさせる習慣があります。スウェーデンにはこれと同じようなセラピーを受けながら、朝食を食べることができるカフェがあり、とても重宝されています。


main_002_hokuou07周囲が暗くても手元が明るければ仕事をする際も支障はありません
Photo:Margareta Bloom Sandebäck/imagebank.sweden.se

このように光がいかに人間に大切なものであるかを、北欧の人々は身をもって知っています。そのため北欧の人たちは光に対して敏感で、それ故に照明の選び方や使い方がとても上手です。照明は空間全体や必要な箇所を明るくするという基本的な機能だけではなくて、その形や光自体が心に落ち着きや癒しを与え、室内をより良くする大切な道具と捉えられています。何を目的とした照明なのか、そのために照明をどこに置いて光を何に当てるのか、光の強さはどのくらいが好ましいか、それぞれの用途によって全てが異なりますが、多くの北欧の照明の根底にあるのは明かりが点いている時も消えている時も、そのフォルムや佇まいに美しさがあるということです。照明も室内の印象に大きな影響を与えるため、家具やインテリア小物と同じく、機能性と美しさが混在しています。

スウェーデンの住宅にある照明はペンダントランプ、フロアランプ、ウォールランプ、テーブルランプのこの4つが主流です。照明により最適な位置や使い方が異なり、気に入ったデザインであっても、用途によっては適さないことがあります。部屋全体に光を放つものと一部に光を集めるものと、照明には大きく分けてこの2つがあり、それぞれの機能にあったものを組み合わせながら適性適所に使うことで、空間に立体感が生まれて、それぞれのシーンを素敵に作り出すことができます。

また基本的なポイントとして、室内の照明も太陽の光の動きと同じという考え方が挙げられます。天井からの煌々とした明かりは12時の太陽の光であり、つまり活動時間を意味します。そのため天井から直滑降に光が放たれている状況は、人が活発に行動する心理を生むこととなり、人の心が落ち着かないことに繋がります。ということは低い位置から放たれる光は、夕方や夜の太陽の動きと同じこととなり、よりリラックスした光となるのです。

例えばダイニングには下方に光が放たれるペンダントランプを使用し、テーブルからちょうど60cmくらいの位置に照明器具の下端が来るよう設置するという法則があります。この方法により光と闇の部分を作り出し光のベールを描いて食卓という空間を作る効果が得られます。またこの60cmの高さはまぶしさを感じるグレアという現象を避け、テーブルに座った時に光源がちょうど目に入らない高さでもあります。

キッチンにペンダントランプを吊す場合は立った時の目線の高さから15-25㎝上に器具下端が来るよう設置するのが妥当と言われています。手元に光を当てて調理しやすいようにするためであり、ダイニング同様に光源が見えない高さにするという理由があります。

その他、北欧の特徴的な照明使いとしてはペンダントランプを低い位置に取り付けて、部屋の一角やコーヒーテーブル、サイドテーブルの上に設置し、部分照明として使う方法です。照明のフォルムがまるで彫刻のように宙に浮いて見え空間を印象付けます。またダイニングのペンダントランプと同様に、この方法によって光と闇が生まれ、小さな部屋が描かれて心に落ち着きをもたらす効果が期待できます。

このように照明使い一つで空間にたくさんの部屋を作ることができると同時に、見せたいものに光を当てて、見せたくないものは闇にして、人の目を誘導することも可能です。そうすることでそこに強弱が生まれより良い雰囲気を演出できます。

秋の夜長と言いますが最近は冬至に向けて日に日に日照時間が短くなり、雨が降るにつれて気温もぐんぐん下がるようになりました。日本でも薄暗く寂しげな雰囲気が漂うこの季節、室内の明かりをこの機会に見直してみませんか?天井から降り注ぐ蛍光灯を消して、必要な場所に必要な光を作ってみてください。もしかしたら最初は暗くて違和感があるかもしれません。でもそのうちにきっと心が落ち着いてくるはずです。温かいお茶を飲みながらほっと一息つける癒しの時間を是非体感してみてください。

main_003_hokuou07 キャンドルの明かりは照明と同じ効果だけでなく、部屋を温めてくれるというメリットが
Photo:Niclas Vestefjell/imagebank.sweden.se

main_004_hokuou07部屋の一角に置かれたイージーチェアと相性の良い小ぶりなテーブルランプ
Photo:Pellinki EmiliaHoisko / Visit Finland

main_005_hokuou07 階段のコーナーにも足元を照らす明かりを
Photo:IBEACON

main_007_hokuou07光だけでなく照明のフォルムや影も楽しめます
Photo:IBEACON

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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