「森のしあわせ通信」Vol.8 キャンドルを使う暮らし

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キャンドルを使う暮らし

日本でキャンドルを使うことは、ちょっと頑張っておしゃれな空間にしてみる、という風になんとなく特別な行為という印象があります。そもそも照明使いが日本と北欧では異なり、蛍光灯で部屋全体を明るくする日本では、キャンドルの火を灯すことは辺りをほぼ真っ暗にしなくてはならず、そうなると少し不便な空間になってしまいます。キャンドルを使うこと自体が特別な事であるのもうなずける状況です。けれども厳しい自然を有する北欧では、キャンドルは日々の暮らしに欠かせない必需品。前回ご紹介した通り、北欧の照明は蛍光灯ではなく主に間接照明を使い、必要なところに必要なだけ明かりを灯す習慣があるので、そもそも室内が常に薄暗く、キャンドルも一つの明かりとして日常的に有効活用されています。また南北に細長いスウェーデンの国土は、南は北緯55度付近、北は北極圏内の北緯70度近くにまで達します。日本の札幌でさえも北緯43度付近でフランスのパリと並ぶ程度、そのため特に冬至に向かう11月から12月は、日に日に日照時間が短くなります。この時期になると出勤前、登校前であってもあたりはまだ真っ暗。つまり家の中は外光による明るさが少なく、特に日照時間の短い今の季節は、朝であっても室内が薄暗い状況なのです。また夏至が代表するように日照時間が長い夏であっても、古い住宅の場合は天井が低くて窓が小さいので外から光が入りにくく、家の中は年中薄暗い状況。間接照明をつけたところで、あともう少しの光が欲しいとき、キャンドルはその手助けをしてくれます。またキャンドルの炎は室内を暖める効果があるため、冬場はもちろん夏であっても夜間はセーターが必要なほど冷え込むスウェーデンでは、暖を取るためにキャンドルを灯す習慣があります。集合住宅などはセントラルヒーティングを利用していることが多いので、年中好きな時に暖房をつけることができない場合があります。こんな時はキャンドルの炎を灯して室温を上げ、明かりを取り、その上で心を落ち着かせるということがスウェーデンの暮らしには根付いています。

main_002_mori_hokuou01キャンドルは大切な人との時間に必ず灯されます
Photo:Tina Stafrén/imagebank.sweden.se

丸くて小さなティーライトキャンドルはもちろん、細長いテーパーキャンドル、円柱型のラウンドキャンドルに至る様々な形のろうそくが北欧の各家庭に常時ストックされています。今や日本でもお馴染みとなった、アロマを焚く際に使われるティーライトキャンドルは、スウェーデンでの消費量が世界トップレベルと言われるほど、その使用頻度は高く、何気ない日常に頻繁に登場します。夜遅くまで太陽が沈まない夏至の時期、テラスでの食事中にあたりが少し薄暗くなってきたら、照明の代わりにキャンドルをつけ、テーブルの上をほんのり照らします。日照時間が短い冬は、朝食時にキャンドルを灯し明かりを取りながら心を落ち着かせます。またオフィスでも食堂の全てのテーブルにはキャンドルホルダーが置かれていて火が灯されています。それは会議のときも同じで、大切なクライアントを迎えるミーティングルームでは、キャンドルの明かりとともに、コーヒーなどの飲み物とクッキーやシナモンパンなどのお菓子が準備されていることが多く、ともに心地よい時間を共有して、より良いビジネスを進めようとするおもてなし精神が存在しています。また家族との時間を最も大切にするスウェーデンの人々にとって、夕食はとても重要なもの。キャンドルを囲んで、リラックスしながら会話を楽しみ、一日で最もしあわせで豊かな時間を過ごすことを試みます。

実はキャンドルホルダーの素材にも役割があります。シルバーやゴールド、ガラス素材は、炎の光が反射してきらめきが増し、より温かい雰囲気を作ることができます。日本ではガラスは夏のイメージがあり、冷たい飲み物を注いだり、冷たい食べ物を盛るなど、涼しげな印象をもたらす素材ですが、スウェーデンでガラスというと温かいものをイメージします。キャンドルホルダーに特にガラスが多いのは、キャンドルの炎がガラスに反射し、小さな光を拡散させてくれるからです。表面にテクスチャーのあるガラスであれば光に透かしたときの陰影をも味わうことができ、薄暗い室内に温かみある柔らかな光が生まれます。このように美しさや心地よさを演出するだけでなく、実際に明かりを取るためであったり、部屋を暖める道具としてキャンドルを使うことが、北欧の日常のキャンドル使いの大きな特徴です。

真夏は高温多湿になる日本ではキャンドルを使う時期は限定されてしまいますが、日照時間の短い秋冬はキャンドルを灯すのにぴったりです。是非、蛍光灯の明かりを消して間接照明を使い、キャンドルライフを試してください。自宅にキャンドルホルダーがなくても、ガラスの器、コップ、陶器のボウル、豆皿や普通の取り皿でもなんでもありです。玄関ホールやベッドサイドにはお気に入りの香りを放つアロマキャンドルも良いかもしれません。キャンドルは室内に優しい明かりを生み、部屋を暖め、心を落ち着かせてくれます。そんな何気ないキャンドルとのひとときが北欧のおうち時間の醍醐味です。

main_003_mori_hokuou01手元を照らすため、素敵な雰囲気を作るため、夕食の準備時間にもキャンドルが登場
Photo:Niclas Vestefjell/imagebank.sweden.se

main_004_mori_hokuou01家族団欒のひとときには欠かせないキャンドル
Photo:Niclas Vestefjell/imagebank.sweden.se

main_005_mori_hokuou01-1ティーライトキャンドルをいくつも使ったホームパーティーのテーブルコーディネート
Photo:IBEACON

main_006_mori_hokuou01コーナーにキャンドルを灯しておくと、間接照明の役割も果たします
Photo:IBEACON

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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