「森のしあわせ通信」Vol.9 クリスマスの雰囲気は続き…そして禁酒月間?

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クリスマスの雰囲気は続き…そして禁酒月間?

スウェーデンの大切な行事に欠かせないのが、命の水と称されるジャガイモを原料とした蒸留酒アクアヴィット。最低37.5%のアルコール含有量を持ち、クミンやディル等様々なスパイスが使用されています。アクアヴィットで乾杯するときは、その横に必ずビールがつきます。水の代わり、というわけではありませんが、水の代わりのようにビールを飲むのが主流です。年間を通して飲まれますが、夏至際とクリスマスには必須で、特にクリスマスは親戚や友人、仕事仲間との集まりが多くなり、12月には忘年会ならぬクリスマスパーティーが頻繁に開かれるので、このようなアルコール度の高いお酒が大量に消費されます。そしてクリスマスイブからクリスマス当日、さらに年末の年越しに至っては、家族や親戚と宴会続きです。そんな時、より会を盛り上げてくれるのがこのアクアヴィットとそれを飲むときの歌です。色々な歌がありますが、どれもアクアヴィットを飲む前に皆で歌い、ショットグラスに入ったそれを一気に飲み干します。中でも誰もが知る歌はヘーランゴー(Helan Går)、全部飲み干せ!というものです。さらに年越しはスパークリングワインかシャンパンで新年を祝い乾杯するのが恒例です。このように一年の終わりは楽しい雰囲気とこの勢いある音楽につられて、ついつい飲みすぎてしまう状況です。

main_004_mori_hokuou02オーピーアンダーソンを軸としてスパイスの調合や種類を変えて作られた色々な種類のアクアヴィット
Photo:Altia/folkofolk/PRIMA Snapstråg LTD Ed med ost

一概に一部の地域を一括りにするわけにはいきませんが、とは言えスウェーデンをはじめとする北欧の人々は我々日本人よりも、人種的な観点からアルコールに強いと言われています。どれほど大量のアルコールを摂取しても二日酔いにならない人が多く、いわゆるチャンポンといったいくつもの種類のお酒を一度の食事に飲んでも、さほど翌日に響かないそうです。とは言え、アルコール度の高いお酒を飲む機会が増え、さらにワインやウィスキーはいつも以上の量を食事中や食後に飲むため、いくらアルコールに強いスウェーデンの人たちとて、12月は肝臓がとてもお疲れです。そこで疲れた肝臓を休ませようと、1月は禁酒月間にする習慣を毎年続けている人が多くいます。

ではお酒好きがお酒を飲まずしてどのように一か月を過ごすのか、お酒を絶つことでストレスはたまらないのか、などと考えがちですが、家での過ごし方をいかに良いものにするかということに長けたスウェーデンの人々にとって、そして厳しい自然とともに生きてきた辛抱強い国民性も相まって、禁酒月間をも楽しむコツをたくさん知っています。

その楽しみの一つが「シューゴンデ クヌート(Tjugondag Knut)」です。日本では12月25日のクリスマスが終わると、すぐにお正月の雰囲気が漂います。前日までの煌びやかで夢のような西洋文化が一変して、厳かで清らかなお正月の雰囲気が街に溢れます。商業施設で流れる音楽はジングルベルからお琴の音色に。しかし世界のキリスト教を国教とする国々では、クリスマスの12日後に当たる、1月6日の公現祭(主顕節)がクリスマスの締めくくり。そのため飾りはその翌日に片付けるのが一般的です。12月26日以降も家の中や街のディスプレイは、引き続きクリスマスの装飾で彩られ、華やかな景観が続きます。しかしスウェーデンとフィンランド、一部のノルウェーでは、公現祭の1週間後の1月13日までクリスマスの雰囲気が漂います。この習慣は17世紀ごろから行われていると言われているのですが、クリスマスから数えてちょうど20日目に当たるため、スウェーデンでは「20日目の聖クヌートの日」という意味の「シューゴンデ クヌート」と呼ばれています。この日はキャンドルや星の飾り、タペストリーなど、クリスマスに関連する飾りを一斉に片付け、生木のツリーも処分します。その昔、農村の子供たちがクリスマスツリーに飾られたお菓子を求め、ツリーを盗みに行ったことに由来して、以前は窓からツリーを投げ捨てるという習慣がありました。流石に都心のマンションからツリーが落ちてきたら大事故になりかねず、今ではあまり見かけなくなりましたが、みんなで手を繋いでクリスマスツリーを囲み、輪になって踊りながらクリスマスデコレーションに別れを告げる風習は残っています。そしてお菓子やケーキとジュースをいただくのが一般的です。

アルコールに強くてお酒好きが多くいるスウェーデンですが、そもそも実は毎日飲む人はそれほど多くなく、毎日お酒を飲むことはアルコール中毒と周りから見られることもあるほどです。お酒に対してもオンとオフの切り替えがしっかりとできているようです。

日本にも無病息災を願い、またお正月の暴飲暴食で疲れた胃腸を労り、冬に不足しがちなビタミンも補える七草粥を1月7日に食べる習慣がありますが、その後の1月13日もスウェーデンのシューゴンデ クヌートに倣って、ジュースとケーキで楽しむのも良いかもしれません。きっと元気な胃腸がその後のヘーランゴーをより楽しいものにしてくれることでしょう。

main_001_mori_hokuou02禁酒月間に欠かせないキャンディー。スーパーには様々な種類のチョコレートや飴やグミが並ぶコーナーがあり、計量して購入するシステムがあります
Photo:Lieselotte van der Meijs/imagebank.sweden.se

main_006_mori_hokuou02年越しカウントダウンは家族ではなく友達や恋人と過ごします。ストックホルムの年越し花火打ち上げの様子
Photo:Jann Lipka/imagebank.sweden.se

main_007_mori_hokuou02街は1月半ばまでクリスマスの雰囲気
Photo:Göran Assner/imagebank.sweden.se

main_008_mori_hokuou021月13日までクリスマスの飾りを楽しみます
Photo:Lieselotte van der Meijs/imagebank.sweden.se

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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