「森のしあわせ通信」Vol.10 春を待ち侘びる日々とウィンタースポーツで最後の冬を満喫

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春を待ち侘びる日々とウィンタースポーツで最後の冬を満喫

年が明け1月13日にクリスマスの飾りが完全に片付けられると、スウェーデンにも再び日常の暮らしが戻ります。寒さは本格的に厳しくなり、南部であっても雪が降る季節の到来です。しかし、12月後半に訪れる冬至が過ぎたこの時期は、日照時間が日に日に長くなり、太陽の存在を感じることも。白い雪に反射してこれまで以上に外が明るく思えるので、これまで気持ちが内に向かっていた人々も、ようやくトンネルの先に光が見えたかのように、6月末にやってくる夏至の日に向かって少し前向きになり、心が外に向きはじめます。


002_mori_hokuou_Vol10外で目一杯体を動かした後のおうち時間は心解れる至福の時間
Photo:Niclas Vestefjell/imagebank.sweden.se

そんな時に街でよく見かけるスウェーデンの季節限定伝統菓子があります。ソフトボールほどの大きさの、柔らかくて丸いカルダモン風味のパンを横半分にカットして、間にアーモンドペースト(マジパン)とたっぷりの生クリームを挟み、上からパウダーシュガーをかけたクリームパン「セムラ (Semla)」 です。1月半ばごろから街のパン屋さん・ケーキ屋さんのショーウィンドウにずらりと並び始めます。メディアでは評判の店を称えた「今年のセムラ」が発表されたり、チョコレート味や薄パンで巻いたクレープ風の変わり種セムラが登場したり、色々な店のセムラを食べ比べたりして、誰もがセムラの話題でもちきりです。自宅やカフェではもちろん、会社のフィーカ(コーヒーブレイク)でも必ずこの時期にはセムラが登場します。驚くほど生クリームが入っていて、たっぷりのパウダーシュガーがかかっているので見た目はとても甘そうですが、スウェーデンの生クリームは砂糖がかなり控えめなので、甘党ではなくてもペロリと食べられるほど。とは言えパンに生クリームですからカロリーは確実に高いです。

本来は、復活祭前の断食をする前日の、「fettisdag(フェットティースダーグ)」と呼ばれる火曜日にだけ食べていたものですが、断食する人がほとんどいなくなった現在も、セムラを食べる習慣だけが残り、クリスマスが終わった日から復活祭までの間にだけ食べられるお菓子になりました。

003_mori_hokuou_Vol10 パン屋さんのショーウィンドウにずらりと並ぶセムラ
Photo:IBEACON

004_mori_hokuou_Vol10セムラは1月半ばから3月末までオフィスのフィーカにも頻繁に登場
Photo:Camilla Degerman/imagebank.sweden.se

セムラを街で見かける同じころ、お花屋さんでは黄色のラッパ水仙と白樺の小枝に色とりどりに染められた羽の束をつけた飾りポスクリス(Påskris)が並びます。早く春が来て欲しいという願いを込めて、花瓶に挿して飾り、黄緑色の新芽が出るのを待ちわびます。色鮮やかなポスクリスを飾る習慣は、復活祭の1週間前の日曜日を祝うために用いられていた中部ヨーロッパの風習から伝わり、1930年代から始まったとされていますが、キリストの受難を忘れないために、聖金曜日(復活祭の前の金曜日)の朝に、家長が子供や使用人を小枝で叩いたというスウェーデンの古い風習にも通じているそうです。

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                                                                                                                                                                   お花屋さんに鮮やかに並ぶポスクリス
                                                                                                                                                                                     Photo: IBEACON


そんな風に街には美味しそうなセムラと色とりどりのポスクリスが並ぶ2月、スウェーデンの学校ではスポーツ休暇(Sportlov)が始まり、ウィンタースポーツで最後の冬を満喫するシーズンとなります。スポーツ休暇は地域によって1週間ごとにずれて訪れます。これに合わせて大人たちも仕事を休み、冬のアクティビティを謳歌します。スポーツ休暇の歴史は第二次世界大戦真っ只中の時代に、スウェーデン政府が学校に配給していた石炭などの燃料費削減のために1週間の休みを与えたことに始まります。学校が閉鎖され暇を持て余している子供達が夢中になれるアクティビティをとプログラムが作成されました。安くて誰にでも簡単に取り組めて、外で体を動かし子供達の健康を維持することが目的でした。1950年代に入り燃料消費削減のための休暇は廃止となりましたが、予想外にもこの時期に流行する感染症の軽減に繋がったとの結論から、この休暇を継続することに。そしてこの長期休暇を国民が旅行に当てて経済効果が現れるよう、企業や公共交通機関がプロモーションを行い、それと同時に全ての地域の子供達が同じように楽しめるよう地域別分散を実施して、現在のスポーツ休暇へと発展していったのです。

スポーツ休暇は家族でスキーに出かけることが多く、そんな時はアフタースキーも楽しみの一つです。健康的にスキーを楽しんだ後、温かい部屋で美味しいものを食べたり、ホットドリンクを飲みながら家族や友人と共に過ごす時間は、なにものにも変えがたい最高のひととき。日本も2月は本格的な寒さが到来する月ですが、寒さに負けぬよう、スウェーデンのスポーツ休暇に倣って寒い中でも体を動かしたら、あとは家の中でセムラを食べ……手に入らなければオンラインでレシピが紹介されているので作ってみたり……そうでなくてもソフトブレッドに生クリームをたっぷり乗せて……。ラッパ水仙は少し時期が早いかもしれませんが、お気に入りの季節の植物、例えば日本の梅や椿も素敵ですが、そんな草花を飾り、ほっこりしたおうち時間をお楽しみください。

 

006_mori_hokuou_Vol10ラッパ水仙はスウェーデンの春の象徴
Photo:Mona Loose/imagebank.sweden.se

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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