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「森のしあわせ通信」Vol.11 LOPPISでの一期一会

この記事の目次

LOPPISでの一期一会

周りにほとんど住居がないようなスウェーデンの田舎道を車で走っていると、通り沿いの簡易な木製ゲートの横に、LOPPIS(ロッピス)とだけ書かれた素朴なサインを目にすることが度々あります。それは遠くからでも目立つ赤色などのカラーマジックや絵の具でラフに手書きしたような、手作り感満載の看板です。段ボールをカッターで大胆に切って、植わっている白樺の木に縛りつけたものだったり、形がいびつな1メートル四方ほどの木片を、古びた椅子に立てかけて、通りを走る車にアピールしていたりと、素朴で思わず目が行く、ある意味サインとしては本来あるべき役割をしっかりと果たした、面白いデザインが多いです。


main_002_mori_hokuou_Vol11この電圧以下は作動しませんという、よく分からないサインボードも
Photo:Tuukka Ervasti/imagebank.sweden.se

LOPPISとは個別に開催しているフリーマーケットのようなものなのですが、ヴィンテージショップのような趣で店を構え、時間や曜日を限定しながらビジネスとして運営している場合もあれば、不要になったものを自宅の軒先で個人的に販売するガレージセールのような場合もあります。街中の広場で毎月開催される、いわゆるフリーマーケットを、あえてLOPPISという名称にしていることもありますが、このような団体や市が開く大きな蚤の市や、個人であっても定期的に営むLOPPIS以外は、多くがホームページもなければ、開店する時間や曜日も不定期で、その時たった1回きりの実施ということも少なくありません。まさにLOPPISとの出会いは偶然なのです。だからスウェーデンの人たちはこのLOPPISがたまらなく好きです。たいてい車を走らせている時に思いがけず出くわすので、看板を横目に一度はそこを通り過ぎるのですが、必ずUターンをして看板まで戻ります。そして軒先のちょっとしたスペースや通り沿いに車を停めてLOPPISを訪れます。何か目的があるわけでもなく、何を求めるわけでもなく……冒険心のような感覚です。インターネットを使って即座に世界中の情報が収集でき、ポチッとすれば地球の裏側にある国々からでも、あらゆるものを購入できる便利な世の中ですが、それとは正反対のLOPPISとの出会いは、いつどこで何に出会えるか分からないからこそ、ワクワクした高揚感に包まれます。LOPPISとの巡り合いはスウェーデンにおける国内旅行の醍醐味の一つです。

LOPPISでは一体誰が買うのだろうと思うような片方だけの靴や、ソーサーが割れてしまったティーカップ、無名の食器や錆びた鍋などが見つかります。季節によっては近所の森で採ってきたブルーベリーやキノコを売っていたり、それらを煮詰めて瓶詰めジャムにしていたり、手作りの木製バターナイフやスプーンなど店主の趣味の工芸品を販売していたりします。羊を飼っている牧場のLOPPISでは、自家製毛糸を使って手で編んだニット製品が見つかることもあります。それぞれ個性豊かで世界に一つのものがたくさん並べられていて、見ているだけで楽しいのです。そうかと思えばガラクタの中からとびっきり貴重なお宝が、驚くほどお手頃な価格で見つかることもあります。

このLOPPISはスウェーデンの人々のモノをとても大切にする習慣から成り立っています。スウェーデンの人たちは何かを購入する時、例えそれが小さな小物だったとしても、本当に自分にとって必要なのかと、時間をかけてじっくり考えてから手に入れます。「安いからとりあえず買っておこう」といったモノの選び方はあまりしません。そのため一つのモノとの付き合いが必然的に長くなります。そして使い込むにつれて着いたキズや汚れは、思い出や足跡として刻まれていきます。本物の素材でできた本質あるモノは、例えキズや汚れがついても、それが味わいとなって、より温かみあるモノとなり、経年変化という新たな美しさを引き出します。そのため手放すときが来ても、捨てるのではなく次の世代に引き継いだり、その価値を理解する別の人に引き渡すことができるというわけです。LOPPISはこのようなスウェーデンの人々のモノとの付き合い方から生まれた、持続可能な文化と言えます。元の使い手も次の使い手も互いがハッピーで、それぞれの空間が心地よくなり、手放した人は思い出にふける時間、引き継いだ人はそれを使う時間によって、家での時間がより豊かなものになるのです。

おうち時間を楽しむために「こうすれば良い」「ああすれば良い」という方法論以上に、スウェーデンの人たちのようなモノとの付き合い方にこそ、根本的なヒントがあるのではないでしょうか。

main_003_mori_hokuou_Vol11 紐もない錆びた昔のローラースケートだって見つかります
Photo:Tuukk/imagebank.sweden.se

main_004_mori_hokuou_Vol11インテリアのアクセントにぴったりなレトロな照明
Photo:Tuukka Ervasti/imagebank.sweden.se

main_005_mori_hokuou_Vol11
ロールストランドのモナミ。日本で人気のお宝ヴィンテージ品に手頃な価格で出会えることも
Photo:Tina Stafrén/imagebank.sweden.se

main_006_mori_hokuou_Vol11LOPPISとうたってはいるものの、ビジネスとして開いているヴィンテージショップ
Photo:IBEACON

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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