マイナンバー制度
日本では2015年10月から付与された、国民一人ひとりに割り当てられる番号制度マイナンバーですが、スウェーデンでは1940年代にすでに導入され、その後1960年代にはデジタル化が推進され現在に至ります。導入されてから5年が経つ日本ですが、その浸透度はまだまだ進まず、また信用度も低いのが現状です。しかしスウェーデンではこの番号がなければ銀行で口座開設ができず、病院での受診すらできず、携帯電話も持つことができず、さらには賃貸契約・車の購入・光熱費の支払いなど、日々の暮らしにかかわるあらゆることにパーソナルナンバーが必要になります。
スウェーデンには個人識別番号が2種類存在し、その1つはパーソナル番号(Personnummer)です。これはスウェーデンという国に登録されているすべての人が持つ番号であり、税務署から発行されます。この番号は一度受け取ると一生変わりません。例え海外に移住したとしても変更されることはない番号です。このパーソナル番号はスウェーデンの公的登録簿に登録されていない場合でも、外交官であったり国際機関に勤務するなどして、1年以上スウェーデンに滞在している場合には、与えられる場合があります。スウェーデンの税務局では、この番号に住所や職場などを紐付け、個人を認識しています。引っ越しや職場移転などがあった場合、当局に連絡をし、情報を更新する必要があります。
もう一つの個人識別番号はコーディネーション番号(Samordningsnummer)と呼ばれ、スウェーデンに登録されていない人(登録されている人でもこの番号を持つケースもあります)が付与される番号です。この番号は、当局やその他の社会的機能が、スウェーデンに登録されていなくても個人を識別できるようにすることが目的で作られました。例えば海外に在住しながらスウェーデン国内の機関に所属し、課税対象者になりうる人はコーディネーション番号が必要になります。この番号もパーソナル番号と同じく、一度付与されると一生は変わりませんが、取得後にパーソナル番号を得た場合、これまで持っていたコーディネーション番号がそれに置き換えられる仕組みです。
パーソナル番号には規則があり、10桁の数字で表記されています。最初の6桁は誕生日です。西暦から始まり生まれた月、そして生まれた日と並びます。その後生まれた場所2桁、性別1桁、そして識別番号1桁という具合です。コーディネーション番号も同じですが、誕生日に60が足される仕組みです。例えば1964年8月23日生まれの人のコーディネーション番号の最初の6桁は640883となります。
前述した通り、パーソナル番号とコーディネーション番号は、スウェーデンで生きていく上で、何をするにも必要不可欠です。病院などの診察においても、個人識別番号に全ての治療履歴が残るため、病院を変えた場合でも効率的に医者に診察をしてもらうことが可能です。さらに銀行口座に紐づいているので、銀行の窓口での支払いがなく、口座引き落としが適応されることで、現金取り扱いの手間や人件費の削減、徴収漏れ防止にもなり、病院の運営においても無駄のない形で進めることができ、さらには国が国民の健康状態を完全に把握することができ、社会保障削減の策にも一役買っているというわけです。さらに個人識別番号があればクレジットカードがなくとも支払いや送金・お金の受け取りをすることができます。つまりこの番号は銀行口座やクレジットカードにも紐づいているため、キャッシュフリー推進にも大きく関わっていると同時に、実のところ、真の目的は国が個人の納税を全て把握するためのものでもあります。
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誰でも閲覧できる個人情報
スウェーデンではこのパーソナル番号や個人の名前から個人情報をオンライン上で検索することができます。誰もが簡単に閲覧できる仕組みで、そこには携帯電話番号、住所、誕生日や年齢、同居人の名前、職場などが表示され、身近な人のことを簡単に調べることができます。
日本では個人情報の漏洩が様々な状況下において問題視されていますが、スウェーデンではこの通り、漏洩どころか公表している状況であり、それぞれに危機管理能力が備わっていれば、家族構成や住所など隠す必要はないと考えられています。
また税務署へ出向けば、閲覧記録は残るものの、より詳しい情報を得る事ができ、納税額などまでも知る事が出来てしまいます。誰がどの程度稼いでいるのかが一目瞭然のため、この仕組みによって男女の所得格差問題の解決の糸口に繋がったとも言われています。
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堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
< 2019年 6月号 生活水準向上の施策 100万戸プログラム
2019年 8月号 ビジョン・ゼロの取り組み >