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「森のしあわせ通信」ビジョン・ゼロの取り組み

この記事の目次

ビジョン・ゼロの取り組み

1995年プロジェクトがスタートし、1997年にスウェーデン議会で可決された施策があります。それは2020年までに交通事故による死者数また永続的な障害を負う人をゼロにするというビジョン・ゼロ(Vision Zero)というもの。ビジョン・ゼロの基盤は利便性よりも安全性を重視し、交通事故から人々を守るためには、交通事故に遭わないような環境を作るしか方法はないという考え方です。例えば“人は交通ルールに違反することもある”ということを前提にした道路整備を進め、これらに多額の資金を投入しています。歩行者、自転車、車が通る道路、正面衝突、側面衝突のリスクがある道路では、それぞれに適正な速度制限が設けられ、交差点をできる限り少なくし、ラウンドアバウト(環状交差点)と呼ばれる円形交差点の導入を進めています。また住宅街への進入路には、ポールを立て、通りの幅を狭くするとともに、走行する自動車やバイクのドライバーに振動を与え、走行速度の抑制や注意喚起を図るための段差舗装が施されています。

もちろん言うまでもなく、車を生産する企業の開発も併せて進められており、自動で速度感知を行い、道路によって適正な速度を維持したり、アラーム音を鳴らすなど、日々進化する最新テクノロジーもビジョン・ゼロに一躍買っています。生産者側のこのような発想はビジョン・ゼロ施行より随分前から、スウェーデンは世界の先を進んでいます。例えば1959年、VOLVOは、今ではどの車にも付いている3点式シートベルトを開発し、世界で初めて当時生産されていた車種AmazonとPV544の運転席と助手席に取り付けました。そして安全は享受すべきものとして、この特許を世界中に無償で提供したのです。
また2008年には新しいVOLVO車での交通事故による死亡者・重傷者を完全になくすという目標ビジョン2020(Vision 2020)が発表され、ビジョン・ゼロとともに持続可能な交通システム構築への取り組みが進められています。

このVOLVOの例をとっても、スウェーデンは交通事故に対する施策や意識が世界に比べて進んでおり、今日では死亡率は世界平均が10万人に17.4人に対して、スウェーデンでは2.8人という低さです。しかし1970年ごろまでは自動車事故での死亡率は、日本とさほど変わりませんでした。その一つの要因として、以前に紹介した、左側走行であった時代に左ハンドルの輸入車に乗っていた人が多かったことが考えられます。この問題を解決すべく、1967年に1日で右側走行に変更するプロジェクトが実施され、その翌年には一部の道路で運転席および助手席のシートベル着用を義務付け、1975年には全ての道路で完全な義務化に至りました。後部席での着用は1986年に義務化となり、1988年には7歳以下の子供は必ずチャイルドシートに座らせることが決定されました。

また冬の時期は道が凍結することの多いスウェーデンでは、各市町村が早朝に溶雪剤などを撒きますが、必ずタイヤをスタットレスタイヤに交換する必要があります。運転免許を取得する際はこの雪道や凍結した路面を走る講習のほか、眠くなる薬をわざわざ服用しての運転や場合によってはお酒を飲んだり、疲れている時間帯に運転講習を受け、実際にどれほどの危険性があるのかを体験することもあり、ドライバーの意識や技術に対しても厳しさを追求しています。

以前ストックホルム市内で面白い実験が行われました。オービス(速度違反自動取締装置)に宝くじ機能がつけられたのです。時速が大きく表示され、車を運転しながら瞬時に自身の車両スピードを確認することができ、法廷速度を守っている人のみ抽選券が与えられ、その賞金は速度違反の罰金から当てられたという試みでした。3日間行われたこの遊び心満載の試験結果は、制限速度30km/hの道路で、期間中24,857台の車がスピードカメラを通過、実験前の平均速度32km/hが、実験中は25km/hに減速し、22%の速度減につながったと言います。

main_002_sweden08 日中でもヘッドライトの点灯が義務付けられています
Photo:Simon Paulin/imagebank.sweden.se

歩行者保護と自然第一の交通ルール

日本とは道路事情や環境、車の数など様々な事柄が異なるものの、どんな時も常に歩行者が保護され優先されます。近くに学校などの教育施設があれば、減速する義務があります。また横断歩道で一時停止せず通り過ぎると罰金を課せられることもあります。後ろに車が走っておらず、自分の車一台が通れば、歩行者は普通に横断歩道を渡れるという状況でも、必ず車を止めて歩行者が横断歩道を渡ってから、改めて車を走らせる必要があります。こんな時、歩行者はお礼の代わりに手を挙げて感謝の意を伝えることもしばしば。見知らぬ人どうしでも、こんな些細な瞬間でも、人とのコミュニケーションが生まれています。

またスウェーデンには自然を第一に考えて、その上で人が動きやすい、車を扱いやすい、はたまた車にとっても負担をかけない運転の仕方が法律で定められており、日本の”人中心、車中心”の法律とは大きく異なります。例えばエンジンをかけっぱなしで停車するアイドリングはスウェーデンでは法律で禁止されており、1分以上の停車はエンジンを切らなければなりません。日本では真夏の炎天下に車内で待機せざるを得ない時、エンジンをかけエアコンをフル回転しなくては命に危険が及ぶことは重々理解できます。しかしスウェーデンではれっきとした法律違反であり、人々も自然への悪影響を懸念します。個人個人が自然へ敬意を払い、自然も人も全てが快適であろうとする意識が日々の暮らしの中に存在しています。

main_003_sweden08 冬場は道が凍結し、より危険が増します
Photo:Helena Wahlman/imagebank.sweden.se

main_004_sweden08車道との距離が近い田舎道では、大人も子供もリフレクターキーフォルダーやウェアを着用し、自身の身を守ります
Photo:Maskot/Folio/imagebank.sweden.se

main_005_sweden08 田舎道ではヘラジカが飛び出してくる危険性も
Photo:Alexander Hall/imagebank.sweden.se

main_006_sweden08 衝突の危険性がある道では、歩道、自転車道、車道がしっかりと分離されています
Photo:Simon Paulin/imagebank.sweden.se

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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