「森のしあわせ通信」スウェーデンのフェミニズム

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スウェーデンのフェミニズム

フェミニズムとは主に女性の性差別からの解放とその考えに基づいた社会運動を指します。日本ではフェミニズムを語ることやフェミニストと自称することはネガティブに捉えられてしまうこともありますが、北欧スウェーデンではもはやフェミニズムを語ることは普通で、逆に自分がフェミニストでないと公言することは男性女性に限らず立場のない状況にあります。フェミニストでないということはジェンダー問題に関心がなく、男女の格差社会を擁護していると捉えられるからです。

ジェンダーギャップリポート2020にもその社会状況が数字として表れており、1位アイスランド、2位ノルウェー、3位フィンランドに続きスウェーデンは4位になりました。経済、学歴、健康、政治の4つのカテゴリーから成る18の指標をもとにデータを取りランク付していくもので、昨年で14年目を迎え153カ国から情報を収集しています。ちなみに隣国デンマークは14位、日本は121位と発表されました。

ジェンダー問題に大きく関わる経済に焦点を当てると、そもそもスウェーデンで女性の社会進出が進んだ背景には労働力不足の問題がありました。戦後少しずつ社会が豊かになるにつれて人手が必要になったことに始まり、1970年代に入ると著しい経済発展に伴いより一層の労働力を補うため女性の雇用が進みました。同時に福祉国家を目指す当時のスウェーデンでは税収増加を目論み、社会保障制度や課税単位を世帯単位から個人単位へと移行、日本で言う配偶者控除の撤廃を行なったのです。女性も働く必要に迫られ、税金の支払いが各家庭で増えたことは子育て世代には大きな負担となりましたが、女性が外で働くことの意義を見出したとも言われています。またその税収により保育や介護・医療の場の人員を増加させることに成功、つまりスウェーデンの男女平等問題は国の経済成長を促すものでもあるとも考えられています。

1980年代末ごろに女性の社会進出はほぼ完了すると、今度は1991年にスウェーデン政府による機会均等法が成立しました。男女関わらず同じ立場にある職種の給料を一律に扱う必要があり、またその機会を平等に与えなければならないというものでした。2009年には平等オンブスマン制度が導入され、女性差別のみならず性的指向や宗教、国籍などあらゆる差別を禁止し、国が定めた差別に関わる禁止法が各職場や施設などで守られているかどうかを監督する組織が誕生しました。

そして2014年にはスウェーデン政府が「フェミニスト政府」を自称し世界に向けてアピールし始めました。世界で初めて政府として男女平等を目指すことを言及したのです。これに合わせてフェミニスト外交を打ち出し、これまでスウェーデンが培ってきた数々の経験とその教訓をもとにフェミニストマニュアルを作成して、女性の権利向上を世界的に促進するようになりました。

現在スウェーデンの国会議員の約半数は女性であり、22人の閣僚のうち12人が女性です。また「フェミニスト政府」として、全ての省庁で予算請求や各分野の政策立案を提出する際に、それらの内容が平等を促すか否かを分析した書類を合わせて提出し審査を受けるシステムが構築されていると言います。これはすべての人が平等な価値を持ち、公平な権利、機会、そしてそれにともなう責任を保持し、性別によって妨げられることなく最大限の可能性を発揮できる社会を築くための仕組みです。

スウェーデンが完璧なまでに男女差別がなく、男性も女性も完全に平等であるかというとそうではありません。未だに男女間における賃金格差もあれば、経営者層には女性が少なく、女性への暴力や健康障害の問題は課題があり、父親母親の育児休暇取得日数における割合は依然として母親の方が多いです。個人個人の価値観や考え方の違いはもちろんあり、心の底では男性優位性を主張している人がいるかもしれません。とは言えスウェーデンにおけるフェミニズムとは女性優位性のことでもなければ、女性中心の考え方でもなく、男女対立を助長させることでもありません。シンプルに個々が尊重される社会を目指すということに尽きます。

ちょうど3月8日は「国際女性デー」です。女性差別の撤廃、そして女性の地位向上を目的とし1975年に国連が制定した記念日です。ジェンダーも年齢も国籍も関係なく、それぞれの能力に応じて活躍をしながら、一人ひとりの人生がより豊かになる社会を目指すことを考える良いきっかけの日になるのではないでしょうか。

main_002_sweden26子育て世代の女性も立場を変えずに仕事に従事
Photo:Lena Granefelt/imagebank.sweden.se

平等達成まであと257年

フェミニズムやフェミニストという言葉はスウェーデンの社会においてとても身近なワードです。例えば北欧を代表するヨーテボリの国際映画祭において2020年のテーマは「フェミニズム」でした。男女平等やジェンダー問題を取り上げて、さまざまな立場や角度から議論しようという意図がありました。決してこれらをテーマにした映画だけが紹介されるわけではなく、女性の監督がいたり、女性が主演のものであったりとさまざまです。このようにスウェーデンは特にフェミニズムにおいて意識の高い国であり同じ北欧であっても隣国デンマークに比べフェミニストを自称する人の割合は多いと言われています。最近は「Han(彼=英語のHe)」や「Hon(彼女=英語のShe)」の使用でさえも異を唱える人がおり、彼と彼女の中間を意味する新しい代名詞「Hen」という単語を使うべきという議論まで生まれているほどです。ただこの意見に賛同する人はデンマークで2%、スウェーデンでは7%程度にとどまりました。神経質になり過ぎず、個々の能力や個性に目が向けられ発揮できる世の中を目指したいところですが、ジェンダーギャップリポートでは経済分野における平等達成にあと257年かかる見通しで、2019年の202年よりもさらに伸びていると報告されています。

main_003_sweden26 自動車産業などの分野でも女性が多く見られるように
Photo:Sofia Sabel/imagebank.sweden.se

main_004_sweden26製造業でも女性の存在が珍しくなくなっています
Photo:Sofia Sabel/imagebank.sweden.se

main_005_sweden26 女性男性関係なく、誰でも能力に応じた仕事に就ける社会
Photo:Cecilia Larsson Lantz/Imagebank.sweden.se

main_006_sweden26日本と同様にスウェーデンでも女性のドライバーが多く見られるようになりましたが、とは言え今でも介護施設・病院、教育の現場に女性が多いのも事実です
Photo:Helena Wahlman/imagebank.sweden.se

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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