スウェーデンのスピリッツ
スウェーデンにはじゃがいもを原料とした蒸留酒アクアビット(スウェーデンではスナップスと言う)があります。アルコール度は40度近くあって、種類によってはそれを越すものもあります。アクアビットの語源はラテン語のアクアビタ(aqua vitae)から派生したもので、「生命の水」という意味を持ち、薬として使用されていたと言われています。当時スウェーデンで蒸留法が広まると、医者たちはその飲み物が精神面において医学的に効果があることを発見しました。またノルウェー最後のローマカトリック大司教へ送られた1531年4月13日付の書簡には「アクア・バイテと呼ばれる様々な水があり、人の内外のあらゆる種類の病気に役立つ」と記述されていたそうです。
現存する最古のアクアビットの記録は、15世紀に作成されたストックホルム市財政報告書に残されています。当時のそれは今でいうブランデーのようなもので、大陸から輸入したワインを蒸留して製造していました。その後、穀物を原料として製造されるようになり、18世紀に入るとドイツからじゃがいもが輸入されるようになったことで、安価で手に入るじゃがいもを原料に、現在のアクアビットが作られるようになりました。
今も販売されているアクアビットの中で最も古い銘柄はオーピーアンダーソン(O.P.Anderson)。1891年にヨーテボリの会社O.P. Anderson & Sonが展示会で発表したスピリットが始まりです。様々なスウェーデンのアクアビットは、このO.P. Andersonを軸としてスパイスの調合や種類を変え生まれています。日本でも流通する銘柄スコーネ(Skåne)は、O.P. Andersonのスパイスの種類を少なくして、キャラウェイ(通常キャラウェイとクミンは別ものだが、キャラウェイはペルシャクミンとも呼ばれる)、アニス、フェンネルのみでブレンドしたもので、1931年に誕生しました。見た目もクリアで、オーピーアンダーソンより癖がなくすっきりと飲みやすい味わいです。
スウェーデンのアクアビットは、同国で生息する草花、例えばヤチヤナギ(ヤマモモ属)、セイヨウニワトコ(エルダーフラワー)、セイヨウオトギリ(オトギリソウ属)、ダイダイ(ミカン属)などが含まれていることが多いため、他の北欧諸国とのそれより少し甘みがあります。
Photo:Magnus Carlsson/imagebank.sweden.se
アクアビットを飲む時間
アルコールに強いスウェーデンの人々であっても、度数の強いアクアビットを毎日飲むわけではありません。必ず登場するのは6月の夏至祭、8月から9月のザリガニパーティー、9月のシュールストレミング(塩漬け発酵ニシン)パーティー、そして12月のクリスマスなど、親戚や友人が多く集まる時です。ニシンの酢漬けや塩味の効いた魚介料理との相性が抜群なため、前菜と合わせて飲まれることが多く、アクアビットを飲むことで、胃を活発にさせて、その後の食事がより美味しくいただけるとされています。
アクアビットで乾杯する際は、その横に必ずビールが付きものです。水の代わり、というわけではありませんが、水の代わりのようにビールも一緒に飲むのが主流です。また同じように欠かせないのはアクアビットの歌。色々な歌がありますが、どれも飲む前に皆で歌い、ショットグラスに入ったアクアビットを一気に飲み干します。中でも誰もが知る歌はヘーランゴー( Helan Går)。全部飲み干せ!というもの。スウェーデンへ行く機会があれば、胃腸を強くしてお出かけください。
Photo:Janus Langhorn/imagebank.sweden.se
Photo:Joel Wåreus/imagebank.sweden.se
堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
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