スウェーデンの老後の暮らし、年金制度
スウェーデンの年金は大きく分けて、基礎年金のAllmän pension、職業年金のTjänstepension、そして個人契約の個人年金Privat pensionの3つの要素で構成されています。スウェーデンの企業には日本のように退職金制度、定年制度が導入されておらず、その代わりにそれぞれの年金に支給開始年齢が定められており、退職と同時に年金が支給される仕組みがあります。
税金で納められたお金から支給され、多くの人の総年金の中で最も大きな割合を占めるのが基礎年金です。基礎年金は所得年金と保険料年金の2つに分けられ、所得年金が大部分を占めます。それぞれの所得やスウェーデンで働いた期間、奨学金や育児・病気休暇中または兵役中などに受けた給付金、年金受給開始時などによってその額は異なります。2016年の平均一般年金は月額税引き前11,791クローネ(約141,000円)で、平均年金全体の約3分の2を占めるとされています。もちろん給与が高いほど所得年金も高くなりますが、上限が設けられているので、ある一定額に達するとそれ以上は支給されません。ちなみに2019年の上限は月額43,309クローネ(約520,000円)とされ、この金額は定期的に調整されます。所得年金に加えて、収入の2.5%が投資ファンドに使われます。所得年金と投資ファンドは雇用主によって支払われるため、個人負担はありません。これに加え、保険料年金が収入の2.5%あります。基礎年金はスウェーデンで働いて納税したことのある人なら誰でも受給する権利があり、低所得または無収入で暮らす人も最低額を得ることができます。保証年金は65歳から受給できますが、新政府の下、その年齢は今後数年間にわたって上昇すると言われています。
この基礎年金に次いで大きな割合を占めるのが職業年金です。多くの雇用者は何らかの形で職業年金を受け取る権利があります。職業年金は雇用者と共済組合の協約により成り立っているため、各企業の保険料は異なります。そのため年金支給開始年齢の制限が低い企業や、年齢の異なる従業員に対して異なる金額を支払う企業もあります。
この職業年金の取り決めは労働組合と雇用主の間の労働協約(Kollektivavtal)に基づいて決定されます。スウェーデンには4つの主要な職業協定があり、それぞれの職場がどれかに属しています。一般的には給与の4.5%が職業年金として貯蓄されますが、協定によっては自分の年金に投資する金額を選択することも可能です。
3つ目の個人年金は任意加入の年金制度で、日本と同じように保険会社や銀行などが運営しているものです。スウェーデンではこれら3つの収入と貯蓄とで、リタイア後の老後の生活が成り立っています。
Photo:Helena Wahlman/ Imagebank. Sweden.se
年金制度と移民政策
先の述べたように、スウェーデンの年金制度はしっかりとした仕組みが整っています。とはいうものの、近年スウェーデンの年金制度は以前ほどの手厚さがなくなり、移民政策と切っても切れない大きな課題として注目されています。
2018年9月スウェーデンで国政選挙が行われ、スウェーデン民主党(Sverigedemokraterna)の選挙CMが物議を呼び、一部のTV局が放送中止の措置をとる出来事がありました。
「全ての政治は何を優先すべきか」というナレーションとともに、画面奥から画面手前に向かって、年老いたスウェーデン人と思われる白人女性がゆっくりと歩行器を使い歩いてきます。その背後からブルカをかぶったイスラムと思われる女性たちが老人を追いかけます。そして「投票日、年金受給者抑制の前に、移民抑制を選ぶことができます」という文言が表示されると、老人が「移民抑制」のハンドルを、ブルカをかぶった女性が「年金受給者抑制」のハンドルを、それぞれ握ろうとする手が画面全体に映りCMは終わります。このCMはYouTubeからも削除され、今は見られなくなっています。
これまでスウェーデンは移民の受け入れを積極的に行ってきました。移民としてスウェーデンに渡り、しっかりと教育を受けた人々は、スウェーデンの社会で立派に成長し働き、税金を支払う立場となり、今のスウェーデンを支えています。しかし昨今の移民政策によって、多くの移民の人々がスウェーデンに移住をし、田舎の空き家や移民の人々の住居として生活をしていますが、彼らの多くは職を得られず、スウェーデン語を学ぶ機会も少なく、移民同士のコミュニティーだけで暮らし、地元の人々にも溶け込めず、孤独と不安の中にいます。同じくスウェーデンの人々もその状況に疑問を覚え、また治安悪化につながる自体にも発展。税金の使い道、特に移民政策のために年金が減らされる状況について、国民が不満を覚える事態となっています。スウェーデンの移民政策を見直す時期が来ているようです。年金か移民政策か…どちらも重要な課題であり、移民問題は先進国スウェーデンが担う責任でもあると分かっていても、自身が苦しくなる方向には持って行きたくない、それは正当な意見です。この状態が助長されナショナリズムが強くなっている状況が今のスウェーデンにはあります。
※1SEK=約¥12(2019年3月時点)
Photo:Rikard Lagerberg/ Imagebank. Sweden.se
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堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
< 2019年 2月号 スウェーデンの#MeToo運動と男女の格差
2019年 4月号 スウェーデンの時間の概念 >