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「森のしあわせ通信」室内の明かり

この記事の目次

室内の明かり

スウェーデンをはじめとする北欧の人々は光に対して敏感で、それ故照明の使い方がとても上手です。それは冬が寒く、長く、暗いという厳しい自然環境がもたらした影響と言えます。
室内の明かりに関して言えば、日本のように蛍光灯を使ってどの時間においても天井から煌々と光を照らすという照明の使い方はしません。照明は部屋をただ明るく照らすためのものではないからです。光が人間の心理に大きく影響を与えることを北欧の人たちは身をもって知っているのです。

室内の照明も太陽の光の動きと同じと考えられています。天井からの煌々とした明かりは12時の太陽の光であり、つまり活動時間を意味します。そのため天井から真下に光が放たれている状況は、人が活発に行動する心理を生むこととなり、人の心が落ち着かないことに繋がります。ということは低い位置から放たれる光は、夕方や夜の太陽の動きと同じこととなり、よりリラックスした光となるのです。

北欧の人々は家を安全で安心できる空間として捉えています。そのため住まいには心落ち着く優しい光を好みます。そして用途に応じて最適な明かりを使い分け、それらがもたらす様々な効果を享受します。キャンドルを日常に使うこともその一環と言えるでしょう。

スウェーデンの住空間にある照明はペンダントライト、フロアランプ、ウォールランプ、テーブルランプのこの4つが主流で、日本の住宅でよく見かけるシーリングライトやダウンライトを使うことは稀です。各部屋ではテーブルランプやフロアランプが活躍し、廊下や玄関ホールではペンダントライトやウォールランプを用いることが多いです。

ダイニングにはそこに適したペンダントライトを使用し、テーブルからちょうど60cmくらいの位置に照明器具の下端が来るよう設置します。この方法により光のベールを描き食卓という空間を作る効果が得られます。またこの60cmの高さはまぶしさを感じるグレアという現象を避け、テーブルに座った時に光源がちょうど目に入らない高さでもあるのです。

キッチンにペンダントライトを吊す場合は立った時の目線の高さから15-25㎝上に器具下端が来るよう設置するのが妥当と言われています。これも光源が見えない高さにするという理屈です。

もちろんそれぞれの照明により最適な高さや使い方は異なり、気に入ったデザインであっても、用途によっては適さないことがあります。部屋全体に光を放つものと一部に光を集めるものと、照明には大きく分けてこの2つがあり、それぞれの機能にあったものを組み合わせながら適性適所に使うことで空間に立体感が生まれて、くつろぎの雰囲気が作れます。

その他、北欧の特徴的な照明使いとしてはペンダントライトを低い位置に取り付けて、部屋の一角やコーヒーテーブル、サイドテーブルの上に設置し、部分照明として使う方法です。北欧の照明は明かりがついている時も消えている時もその形が洗練されているので、まるで彫刻のようなフォルムが宙に浮いているかのような美しさを放ち空間を印象付けます。

またスウェーデンの人々がリビングなどにはカーテンを付けない理由の一つにこの照明使いが結びついていると言えるでしょう。室内に明かりが煌々とついていると、屋外が全く見えずそれ故に外から誰かが見ているかもしれないという不安な気持ちが芽生えて、カーテンで遮断したくなる心理が生まれます。その反対に各場所に必要なだけの間接照明を付け、ダイニングのようにその一箇所を光のベールで包んでプライベート空間のような感覚をもたらすことで、空間全体は薄暗いので夜であっても外の状況が把握でき、部屋全体の状況が外からは見えにくくなり不安な要素が減ります。それによってカーテンをつける必要がないというわけです。


main_002_sweden21とにかく北欧の冬は日照時間が短く暗いのです
Photo:Asaf Kliger/imagebank.sweden.se

光線療法

スウェーデンの真夏の直射日光の明るさは約100,000ルクスと言われています。これは日本の同時期とほぼ同じです。しかし真冬は約1,500ルクスとなり曇りの日は約300ルクス、その上スウェーデン北部にいたっては日照時間が0になる時もあります。日本の真冬の曇天の日でさえ約10,000 – 20,000ルクスあることを考えると比べ物にならない低さです。睡眠と覚醒サイクルを調節するメラトニンを分泌するには最低約2,500ルクス必要と考えられており、スウェーデンの真冬の直射日光の明るさはこの最低数値を大きく下回っているのです。

例えばスウェーデンの首都ストックホルムの真冬の日照時間は朝9時半から午後2時半ごろまでです。一般的な会社勤めの人は朝真っ暗な中で仕事に向かい、夕方自宅に帰るころにはすでに日は落ちていて、ほとんど太陽の光を浴びることはありません。このような日々を続けると精神疾患を患う可能性が高くなります。そのため北欧では冬の間、医療用のモバイル照明をダイニングに持って行き、朝食を取りながら光を浴びて体を目覚めさせ、また精神を落ち着かせる習慣があります。スウェーデンにおいてはそのような照明を自宅に所有していない人々に対して、カフェという形でその場を開放している場所が全国に存在します。

約2,000円で朝食とセラピーを提供するストックホルムのとあるカフェでは、客は入り口で渡された白いローブを服の上から着用し、日本のように靴を脱いで席に着きます。室内は壁も床も家具も全て真っ白で、天井から約3,000ルクスある光が上部に放たれ、天井を反射して六角形の壁に当たってセラピーに適した光を空間全体に作り出しています。人々は出勤前の1時間ほどをそこの空間で朝食を食べながらライトセラピーを受けます。季節性情動障害(SAD)に悩む人は人口の約8%いると言われていますが病院へ行くことをためらう人も多く、また病院へ行くほどではないけれど冬場になるとやる気が起こらず疲れやすいという症状を訴える人もいるために、このようなカフェはとても重宝されているようです。

main_003_sweden21 キャンドルも日常に欠かせない重要な光
Photo:Maskot/Folio/imagebank.sweden.se

main_005_sweden21フィンランドの巨匠アルヴァ・アアルトが1936年にデザインしたA330S
Photo:IBEACON

main_007_sweden21 チェストにはテーブルランプを置いて
Photo:IBEACON 

main_008_sweden21真冬でもスキーをしたり午後の散歩に出かけることで、ライトセラピーと同じような効果が得られると言われています
Photo:Anna Hållams/imagebank.sweden.se

 


writer_photo堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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