森は地球を構成する大きな要素のひとつです。その役割は主に3つあります。
- 雨水を蓄え少しずつ流すという水の循環を担うこと
- 二酸化炭素を吸収し酸素をつくりだすこと
- 多種多様な生命をつなぐ生態系を構成すること
そして、人もその生態系の一部として、暮らしに必要な様々な資源を森から手に入れています。食料、水、木材、燃料、新薬の遺伝子、防災、娯楽、芸術や宗教の基盤など。私たちは、森がもたらす多様なサービスに依存して生きているのです。そんな森の大切さにいち早く気づき、今から100年以上も前に森と上手につきあうことに取り組みはじめたのがスウェーデン。その人と森の豊かな関係から、私たちの次代の暮らしを考えます。
掲載号:The SWEDEN HOUSE No.165
ようこそ、新しい「The SWEDEN HOUSE」へ。
〝地球は先祖から引き継いだものではない、子孫から借りているものだ〞という言葉があります。美しい地球は、そのままの美しさで次の世代へ返さなくてはなりません。そのために人の暮らしも、自然のサイクルに寄り添った方がいいのです。
スウェーデンハウスは、これまで通り、これからも、住宅メーカーとしてできることを行ってまいります。地球との共生の上に根づく、快適な暮らし、心豊かな暮らし、そして健康で安全な暮らしをお届けしたいと考えます。
The Performance For Our Planet.
この星のための性能。スウェーデンハウスの想いです。
森はみんなのもの
風が運ぶ子どもたちの声。楽しげな響きに誘われて、トウヒの枝をわけ入ると、声の主たちが野生のベリーを摘みながらふざけあっている──スウェーデンでは、こんな場面によく出会います。国土の70%以上を占める森は、この国の人々にとって、暮らしに身近な場。あるスウェーデンの友人は「森は近くの公園のようなもの」と言います。考えごとをしたい時、ただ森を歩くこともよくあると。もちろん人によって違いはあるものの、スウェーデンの人々にとって森はとても大切な存在なのです。
今では環境大国であるスウェーデンも、歴史を振り返ると、森林破壊の危機に直面した時代がありました。18世紀後半、産業革命の頃、ヨーロッパへの輸出製材品のために乱伐を重ねたのが主な原因です。しかし、森が身近な存在であったからこそ、いち早くその危機を察知することができ、森と共に暮らす未来をスウェーデンのあるべき姿と捉えました。1903年に制定された「森林保護法」は、その姿勢を示す宣言でもあります。高樹齢の木を伐採し、伐採量より成長量が上回る植林を義務化したこの法律により、自然のサイクルと共生する、持続可能な社会に向けてシフトしたのです。
しかし、国策として踏み切ったとはいえ、実行するのは国民であり、一人ひとりが自分の問題として取り組むことが重要。特に未来を担う子どもたちが、自然と人との関係を知らなければ、持続可能な社会は決して長続きしません。どうしたらいいのか? そのひとつの手段が、環境教育でした。
発見や喜びが環境を想う出発点。
1950年代頃からスウェーデンでは都市化が進み、森を知らない子どもたちが増えたといいます。そんな子どもたちに自然と人の関係を知って欲しいと考えた大人たちが子どもたちの想像力を刺激する架空の妖精ムッレとなって、森を一緒に体験する「ムッレ教室※1」をスタートさせました。1957年のことでした。
ムッレは森の動物や植物と会話ができ、その言葉を子どもたちに伝えます。子どもたちは遊びながら五感で自然を体験し、人間が自然の法則を変えたり、壊してはいけないことを学んでいくのです。スウェーデンではこの教室以外にも多くの教育現場で様々な野外教育が実践されています。また学校では各教科に環境教育が導入されていて、子どもたちはそれぞれの科目から多面的に環境について学びます。ゴミの分別や、コンポストを利用することも、学校や家庭で実践しながら身につけているそうです。やがて自然の循環についてまで子どもたちが理解できるようになるのは、幼い頃の野外教室によって自然を大切にするという気持ちがすでに芽生えているから。スウェーデンの高い環境意識の出発点は、小さな子どもたちの森での発見や喜びにあるのです。
スウェーデンには、森や湖などの自然が誰の所有であろうと、その環境を享受することができるという「自然享受権※2」があります。所有者の邪魔をせず自然を壊さないことをモットーに、ベリーやキノコを採ったり、テントを張ったりすることができます。法律には〝すべての人が自然享受権によって自然に立ち入ることができる。自然享受権を使う人および、ただ自然の中にいる時は、自然に尊敬と思慮を表わさなければならない〞という記載のみ。それでも法律がうまく機能しているのは、日々の暮らしや教育を通じて、自然と共に生きることが自分たちの人生を豊かにしてくれることを、人々が感じているからではないでしょうか。
※1ムッレ教室:子どもを対象に民間の市民団体から起こったこの教室は、やがて幼稚園や保育園、小学校にまで採用され、世界にも広がっています。
※2自然享受権:宅地や畑に近づかなければ、旅行者を含む誰もが利用できる大変ユニークな権利。スウェーデン語では、Allemansrätten(アッレマンスレッテン)。
自然のサイクルに寄り添う家。
スウェーデンの友人は「たとえば採ってはいけない花は、幼稚園くらいから、散歩の途中で教えられたし、絶滅危惧種についても小学校で習っていた」と教えてくれました。日本ではどうでしょう?絶滅危惧種まで教わらないにしても、里山のように暮らしと森が密接に関わる地域では、自然の大切さや採ってはいけないものを伝えているはずです。
生物学者レイチェル・カーソンは「自然に目を見はる子どもの感性を保つには、子どもと一緒に驚きを分かち合う大人がそばにいる必要がある※」と書いています。日本に暮らす私たちも、子どもたちと同じ目線で自然への発見や喜びを共有できれば、自然への感受性を磨くことができるのではないでしょうか。スウェーデンが世界に先駆けて、持続可能な社会に向けてシフトできたのも、森の恵み(=性能)を受けとめる豊かな心を一人ひとりが磨いてきたから。私たちが普段目にする周辺の環境は、スウェーデンのそれとは違うかもしれません。しかし、自然のサイクルに寄り添う気持ちさえ持っていれば、本当に大切なものを見失うことはないはずです。
日本には、スウェーデンの森から生まれ、自然のサイクルに寄り添うスウェーデンハウスという家があります。長く住み継げ、省エネルギー性能に優れた快適な家に暮らすということは、持続可能な社会につながっていきます。そして、私たちがまわりの自然をしっかり見つめたり、家族とそこで得た喜びを共有することから、持続可能な社会は開けていくことでしょう。一人ひとりの意識や選択が、未来をつくっていくのですから。
※出典:新潮社『センス・オブ・ワンダー』