シリーズ:この時代を生きる家「希望の家」

希望の家

この記事の目次

これからの時代の住まい選びに、大切なことは一体何なのか。今回は「希望の家」という視点から考えます。
掲載号:The SWEDEN HOUSE No.188

持続可能な社会って、希望を手渡ししていくことなんだと思う。

高校に通う娘が宿題だと言って、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)についてのレポートをまとめていた。2015年に国連総会で採択された行動目標ヘの認識が国内でも広がりつつあり、学校でも取り上げているようだ。

子どもや孫の世代に、安心して渡せる環境や経済、「社会」をつくるために、地球レベルで取り組むという行動目標SDGsは、地球に暮らす人ひとりが、自分にできることを見つけて取り組むというところに特徴がある。掲げられている目標は17あるが、中でも「つくる責任 つかう責任」は、日常生活の中で誰もが向き合うことのできる、身近な項目の一つだと思う。

我が家がスウェーデンハウスを建てた15年前、スウェーデンの住哲学を知り、目から鱗が落ちたのを思い出す。親が家を持ち、子どもが別荘を持ち、孫がヨットを持つ…建てては壊すというスクラップ&ビルドに財産を使うのではなく、「良いものを受け継いでいく」という文化。それは豊かな生活を人々にもたらすだけでなく、地球環境にも優しい生き方であり、スウェーデンハウスの根っこはその考え方にあるのだと知った時、この家に住みたいと思った。

スウェーデンは目標の達成率を示す「SDGsランキング」でこの5年間、4回の世界一となっている(2019年のみデンマークが1位。日本は2020年17位)。まさに世界のリーダー的存在だ。SDGsという言葉が生まれる遥か昔、今から100年も前に、スウェーデンでは子どもたちが「100年後の祖国のために」と植樹をしていた。そんな昔から徹底した環境教育が続いているのだから、当然といえば当然のことかもしれない。スウェーデンにとってSDGSは日常のこと。ましてやただのブームなどでは決してない。今まで通り、これからも変わらない、彼らの「生き方」の一部にすぎない。

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あとから来る者のために
田畑を耕し
種を用意しておくのだ
山を川を海を
きれいにしておくのだ
ああ
あとから来る者のために
苦労をし 我慢をし
みなそれぞれの力を傾けるのだ
あとからあとから続いてくる
あの可愛い者たちのために
みなそれぞれ自分にできる
何かをしてゆくのだ

詩人、坂村真民※1の「あとから来る者のために」も、SDGsという言葉などない時代に書かれた詩だ。政治や経済、科学、難しいことを全て理解することはできないけれど、原点はこういうことなのではないかと私は思っている。持続可能な社会を語ることは、「希望」を語ることなのだと。

私たちのあとから、私たちの可愛い人たちがやって来る。あとからあとからやって来る。胸を張って渡せるものを、今用意しなければいけない。遅まきながら世界がようやく本腰を人れ、スウェーデンを見習いながら歩みを始めている。地球一個分しかない資源で、世界の人々や、生き物と、共に生きていくにはどうしたらいいのか。誰一人取り残さないために、行動の一つひとつを変えていこうと呼びかけている。

※1 坂村真民(さかむら しんみん)
1909(明治42)年~ 2006(平成 18)年 詩人

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コロナ禍にみまわれたこの一年、いやがおうにも私たちの行動は変化し、生活スタイルも変わった。最初は慣れなくて戸惑ったことも、徐々に日常になり、むしろ「この方が良かった」と思える行動様式や、新しい価値観にも出会うことができた。コロナ禍という憂うべききっかけではあったけれど、「変われる」ということは素晴らしいことだ。SDGsへの取り組みをきっかけに、世界中が心を砕き、手を取り合い「あとから来る者のために」変われるといい。

どんな家を建てるか、その選択は世界を変える。決して大袈裟ではない。100年前、子どもたちが植えた小さな苗が、現在のスウェーデンを「森の国」と呼ばれる環境大国とならしめたように、一人の小さな行動こそが、未来を変える力となる。CO2を固定できる木の家で、100年住める強さ、冷暖房効率の良い気密・断熱性能…SDGsの中にうたわれている、「つくる責任」がしっかりと果たされている家だ。そして、私たちには「つかう責任」がある。スウェーデンハウスを選んだことは、家族にとっても、地球にとっても正しい選択だったと自負している。

娘が2歳になる春、私たちはこの家に入居した。荷解きをしながら、100年先のこの家のことを、会うこともないだろう娘の孫たちのことを、明るく思い描いたのを覚えている。それは確かな希望であり、幸福だった。あの日からずっと、その希望は色褪せることがない。

文:上西左知子
コピーライター/スウェーデンハウスオーナー 2006年入居

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