新しい年が始まり自宅の各部屋やワークデスクにカレンダーを新調された方は多いのではないでしょうか。年末にスウェーデンハウスから送られてきた美しい写真が特徴のカレンダーを使っている方もいらっしゃることでしょう。カレンダーを使うことは万国共通ですが、各国それぞれの祝日や行事が記されたそれは、その国の文化や習慣・風習が反映されていて、なかなか興味深いものです。
祝日ではないものの例えば11月22日は語呂を合わせて”良い夫婦の日”と言われていたり、食品の企業や組合がプロモーションや消費拡大の一環として毎月〇日は〇〇の日と制定したりと日本でも様々な活動が見られます。スウェーデンでも同じように食べ物の日は多く、年間を通してそれを見ていると現地の食文化がよく分かる気がします。例えば毎年4月12日はリコリスの日。リコリスとは天草の根とアニスオイルからなる菓子の一種でキャンディーとして食べられることが多いのですが、日本の人たちには馴染みがなく苦手とされるもの。しかしスウェーデンの人々はそれが大好きで、なくてはならない存在であり旅先にも持参する人をよく見ます。また酪農が盛んなスウェーデンらしく毎年6月1日はミルクの日、そしてジャガイモを主食とする国らしく6月6日は新ジャガの日、供給が良好な時期である10月26日もジャガイモの日とされています。また日本でもよく知られるミートボールは8月23日がその記念日。スウェーデンの人々が秋の楽しみとしているきのこは移動記念日で2021年は9月5日とされています。スーパーや専門店ではこの記念日にちなみキャンペーンを実施するなど、それぞれの食品によりフォーカスした活動がそこら中で見られます。
そんな中でも特に身近で広く普及しているスウェーデンの食の記念日がワッフルの日とシナモンロールの日、そしてジンジャークッキーの日です。どれもスウェーデンの人々にとって馴染み深いお菓子で年中食べられているものではあるのですが、特にこの日は多くの企業や店、そして人々が意識をしてそのお菓子を売り出し、購入し、会社のフィーカ(休憩時間)で食べたりします。
ワッフルの日は毎年3月25日で、この日はクリスマスの9ヶ月前に当たりキリスト教の受胎告知が行われた日とされていることに由来していますが、春の日(ヴォルフルダグ:Vårfrudag)と呼ばれるこの日のことを間違って発音されワッフルの日(ヴォルフェルダグ:Våffeldag)となったとも言われています。さらに冬が終わり卵や牛乳が手に入りやすくなった季節であることなど、ワッフルの日には色々な要素が含まれているのです。
シナモンロールの日は毎年10月4日です。1999年に制定された誰もが馴染み深い記念日です。制定当時スウェーデンでは10月4日が児童の日であったことから、身近なシナモンロールをテーマに掲げることで、子供の権利に対する関心をより高めることができると考えられました。またシナモンロールを食べることとホームベーキングへの注目を集めることも目的とされています。
ジンジャークッキーの日はクリスマスを目前に控えた12月9日に制定されています。1929年にアンナとエマ・カールソン(Anna, Emma Karlsson)姉妹によって誕生し、今では日本でも販売されているAnnasのジンジャークッキーを販売する大手菓子メーカーによって1996年に定められました。ジンジャークッキーはクリスマスに欠かせないお菓子のため、この時期は一年の中でも特に多く消費されます。この記念日に合わせてクリスマス用の自家製ジンジャークッキーを作る人も少なくありません。
Photo:Moa Karlberg/imagebank.sweden.se
スウェーデンのカレンダーには毎日名前がついています。多くが男性と女性2つの名前がついており例えばこのコラムの投稿日1月28日はカール(Karl)とクララ(Karla)といった具合です。現在これらの名前は2001年に大きく改定されたものでニックネームは含まないこと、3名までの名前がつけられること、文化と歴史に繋がりがあることなどという原則のもと、スウェーデンにおいて15年間有効であるとされ、その後2011年、2015年、2018年に一部の内容が変更・追加されて現在に至ります。
このように毎日に名前がある起源はローマ・カトリックの聖人と殉教者のリストから来ているとされています。当時人々が生まれた日を祝うことは良いこととはされておらず、そもそも中世のスウェーデンでは誕生日も名前の日もそれほど大きな意味はありませんでした。17世紀に入り上流階級が名前の日を祝うようになると、1747年にスウェーデン王立科学アカデミーに暦年鑑に関する資料の発行独占権が与えられ、その2年後に古いカトリックの式典などが多数掲載された公式資料が誕生しました。1899年、時代の変化に合わせ新組織が政府の要請により結成されると、1901年に新しい名前の日カレンダーが生まれました。約150の聖人の名が削除され、28が変更され、177の新しい名前が追加、また女性の名前が79から134に増加されました。古いラテン語形式をスウェーデン語の名前に変えたり、亡くなった有名人の名誉として誕生日や命日にその人の名前が付けられるなど、より親しみある名付け方法が採用されたようです。
今日、名前の日を意識する人は多くはありませんが、それでも名前の日が記されたカレンダーが売られるなど、毎日の暮らしに身近なものであり、また自分の名前がカレンダーにある場合はちょっとしたお祝いをする人もいます。ちなみに12月9日ジンジャークッキーの日の名前はもちろんアンナ(Anna)です。
10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。
< 2020年 12月号 多様性ある社会 2021年 2月号 スウェーデンのフェミニズム >