掲載号:The SWEDEN HOUSE No.163
5分間のTV番組だったと思う。「世界遺産・フィンランドのペタヤヴェシ教会」。ここの説教壇の木製レリーフに仰天した。キリストも天使も、なんとも愛らしい。北欧も北極にほど近い場所まで行くと神秘的な教会が存在するのだと知った。
私は、9月の晴れた日に、スウェーデン南スコーネの古都ルンドに居た。ルンド大学に隣接された民族野外博物館の民家を調べるためだ。実は、ここにくるのは3度目。小規模で静かな環境が好ましい。
ほとんどが中世の民家、商家だが、その中に一つだけ小さな教会(1652年建造)がある。全てが木造、外壁はウロコ状の木片で覆われ、赤いファールンレッドで塗り固められている。扉を開け、ギシギシと音のする床を歩き、正面の祭壇まで行って驚いた。
ここの木彫りのレリーフは「最後の晩餐」。中央のキリストはそれと分かるが、十二使徒があんまり愛らしいので、誰がイスカリオテのユダかまったくわからない。私にはダビンチをはじめ高名の画家が描いた「最後の晩餐」の図が無意識のうちに刷り込まれているのだろう。それにスペインやイタリアの教会で見たキリストの姿は、血を流し痛ましい姿がほとんどだ。そのリアルさに私は目を背けてしまうことがあった。でも、この赤い教会のキリストは、ペタヤヴェシにも通じる愛らしさだ。あらぶる心も救われるような気がし、私は思わず手を合わせていた。
Prof ile
深井せつ子
画家。北欧各国の清涼な風景に魅かれ、北欧行を重ねながら、個展・出版等で作品の発表を続けている。絵本に『イェータ運河を行く』、『風車がまわった!』、『一枚の布をぐるぐるぐる』など。北欧絵本『森はみんなの保育園』は昨年10月に出版された(全て福音館書店)。
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