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「森のしあわせ通信」心地よい暮らし − 北欧デンマークに学ぶヒュッゲとは?

作成者: スウェーデンハウス|2025.03.03

心地よい暮らし − 北欧デンマークに学ぶヒュッゲとは?

昨今の状況下、自宅で過ごす時間がこれまでより長くなりました。これはまさに北欧の暮らしそのものとも言えます。そこで、今回は隣国デンマークから心地よい暮らしのヒントを見つけ出したいと思います。

日本と同様に北欧にも四季はあります。その中で最も期間が長いのが冬の季節で、その上、北欧の冬は長いだけではなく寒くて暗いと3拍子揃った状況です。この中で最も人間の健康に大きな影響を与えるのは暗さです。冬場は日照時間が短く、12月後半にやってくる冬至のころでは朝9時ごろにやっと明るくなったかと思うと、午後15時ごろにはすでに日が沈みかけているといった具合です。また日が出ているといっても曇り空のような雰囲気のため、精神的にも内向きになり自然と家で過ごすことが多くなるのです。そこで生まれたのがシンプルだけど機能性と美しさが兼備わった家具や動物・植物をモチーフにしたカラフルなファブリックなどのインテリアです。北欧の人々はそれらを上手に活用して、できる限り目に見えるものを美しいものや自分の好きなもので揃えるよう工夫しています。ただし環境が備わったからといって暮らしは豊かになるとは限りません。その素敵な空間でどのように誰と過ごすかという時間の使い方が最も重要な課題と言えるのです。

そんな北欧の心地よい暮らしを実践するためのヒントとなるデンマーク特有の言葉にヒュッゲというものがあります。ヒュッゲは英語では「Cozy」「Comfortable」、日本語では「心地よい時間・空間」と表現されていて、豊かな暮らしを象徴するキーワードとして世界中で広まりを見せています。2016年にイギリスでは「ヒュッゲを学ぼう」という動きがあり、「ブレグジット(イギリスのEU離脱)」や「トランピズム(トランプ主義)」と並んで、最も話題になった単語の一つとなりました。最近では日本でもヒュッゲという言葉を様々な場所で見かけるようになりました。

幸福度や生活の質に特化したデンマークのシンクタンク〈ハピネス研究所(Insititute For Happiness Science)〉で研究を行うマイク・ヴァイキングの著書〈ヒュッゲ 365日「シンプルな幸せ」のつくり方(THE LITTLE BOOK OF HYGGE)〉 にはヒュッゲに必要な10個の要素が記されています。その1.Atmosphere(雰囲気)、その2.Presence(居場所)、その3.Pleasure(満足)、その4.Equality(平等)、その5.Gratitude(感謝)、その6.Harmony(調和)、その7.Comfort(心地良さ)、その8.Truce(停戦)、その9.Togetherness(連帯感)、その10.Shelter(安全)。

日本で知られているヒュッゲはキャンドルを灯し暖炉の前でコーヒーとお菓子をいただきながら、ふわふわのブランケットに身を包んでゆっくりとくつろぐ……というイメージですが、そのような安らぎや癒しの時間のみならず、みんなで食事をする時間、友人と浜辺でワイワイ楽しむ時間、誰かと一緒に料理をする時間など、家族や友人、恋人と親密な時間を共有するというところにヒュッゲの本来の醍醐味があります。人によってはサイクリングやスポーツで汗を流している時、ショッピングをしている時、電車で移動中に本を読む時間であってもヒュッゲであるとされています。また仕事中にもヒュッゲの時間があると答えた人が78%もいたと同書では記されており、上記に挙げたヒュッゲの要素を当てはめてみれば、出社したらまずはキャンドルを灯したり、かしこまった形ではなくカジュアルでリラックスした雰囲気の中、相手と平等な立場で会議を行ったり、会議テーブルではなくて長椅子で面接したり、同僚とともに一つのプロジェクトや目標に向かって共に歩むプロセスでさえもヒュッゲと言えるのかもしれません。そして健康ブームにあやかった限度を超えた節制ではなくて「時にはキャンディーだっていいじゃない!」「今日のランチはジャンクフード!」といった “ちょっとした喜び” を持つこともヒュッゲの大きなテーマです。デンマークの人々は日々あらゆる場面でヒュッゲを感じていて、毎日の暮らしのどこにでも幸せと感謝を常に心得ているのです。


家族やパートナー、友人とのランチタイムは幸せなひととき
Photo:Anna Hållams/imagebank.sweden.se

デンマークの幸福度

国連の持続可能な開発ソリューションネットワーク(SDSN)が毎年3月に発表する世界幸福度ランキング(World Happiness Report)のレポートでデンマークは上位を維持し続けています。レポートが初めて発表された2012年、そして2013年、2014年、2016年、デンマークは1位に輝き、他の年も必ず3位までに入っています。昨年2020年は1位のフィンランドに続き2位という結果でした。この要因の一つとしてデンマークの人々が持つヒュッゲの思想が大きく影響しているのは間違いないようです。“足るを知る”と言いますがデンマークのみならずスウェーデンをはじめとする北欧の人々はその点を心得ていて、なんでもない普通の日にも目の前にある喜びを摘み取るのがとても上手です。厳しい自然とともに共存するための生活の知恵なのかもしれません。2020年、残念ながら日本は62位という結果でした。2018年の54位、2019年の58位からますますランクを落としています。今年の世界幸福度ランキングの発表はもうすぐです。

同じタスクを持った仕事仲間と平等な立場で働ける環境
Photo:Lieselotte van der Meijs/imagebank.sweden.se

健康な身体があってこその幸せ
Photo:Werner Nystrand/Folio/imagebank.sweden.se

厳しい自然環境が育んだシンプルで飽きの来ない北欧のインテリア
Photo:Patrik Svedberg

クリエイティブな発想は何気ない日常をより楽しくハッピーにしてくれます
Photo:IBEACON

 

堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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