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「森のしあわせ通信」一年で最高のシーズン

作成者: スウェーデンハウス|2023.06.08

一年で最高のシーズン

スウェーデンハウスにお住まいのみなさまには、言わずと知れた夏至の季節がやってきました。日本は梅雨真っ只中で、ジメジメと蒸し暑く、すっきりしない日々ですが、スウェーデンでは今この時期が一年で最高の季節とされ、爽やかで過ごしやすい毎日が続きます。スウェーデンの人々はこの瞬間を一年中待ち続けていたといっても過言ではないほど、今が最も輝かしく美しいシーズン。心が解放されて満たされ、この喜びを親しい人たちとともに分かち合います。2020年は6月21日の日曜日が夏至の日にあたり、日照時間が一年で最も長い日となりました。

スウェーデンを含む北欧は、この文字通りヨーロッパの北に位置しています。スウェーデンの国土面積は日本の約1.2倍と言われ、欧州連合の中で3番目に大きな国です。その土地は南北に細長く、直線距離で1,574km。その中でも比較的南に位置する首都ストックホルムの緯度でさえ59度で、札幌の43度と比べても随分と北にあることが分かります。夏至のこの季節、ストックホルムの日照時間は最長で18時間ほどとなり、朝3時47分に夜が明けて夜21時44分に太陽が沈みます。北極圏に至っては日照時間が24時間で、一日中太陽は沈みません。これが白夜と言われるものですが、とは言え一日中太陽が真上から光を降り注ぐ昼間のような明るさが続くわけではありません。夜間は夕方のような雰囲気となり、日本ではなかなか見られない特徴的な美しい光の時間が流れます。つまりこれだけ極端な日照時間があるということは、その反対に太陽がほとんど顔を出さない季節があるということです。それが極夜と言われるもの。主に太陽の光が当たる限界緯度の66.6度を超える、南極圏や北極圏で起こる現象のことを指します。12月後半に訪れる冬至の時期がこれに当たり、ストックホルムでは日照時間が6時間ほど、北極圏に位置する街キールナでは日照時間0時間となります。

北欧の冬と聞くと「寒そう」という言葉が漏れそうですが、実は「寒い」ことは、現代のスウェーデンに限って言えばそれほど大変なことではありません。そのことはスウェーデンのことわざにも現れていて「悪い天気なんてなくて、着ている服が悪いだけ。(Det finns inget dåligt väder, bara dåliga kläder.)」というように、ちゃんと簡単な対策があるので、あまり問題ではないのです。特にスウェーデンはメキシコ湾流と、北大西洋から流れこむ多少温暖な偏西風の影響で、例えば1月のストックホルムの平均気温はマイナス2.8℃といった具合に、気候は比較的温暖です。では、人間にとって特に辛い状況というのは何を指すのか、それは前述したようにこの極端な日照時間のことなのです。

太陽の光が冬でも十分に注ぐ日本において、そのことを感じることはあまりありません。しかし昨今の状況下、初夏の心地よい季節にも関わらず、外出を控えるよう要請がありましたが、この時多くの専門家が言っていたのは、日光を浴びることの大切さでした。太陽の光を浴びることは精神を安定させ、幸福を感じやすくなると言われています。免疫力をアップさせたり健康に不可欠な栄養素を生成したり、ストレスを軽減する効果があり、生きる上で重要なものです。冬が長くその間の日照時間が極端に短いスウェーデンにおいて、日光を浴びずに過ごす数ヶ月は、人々の性格をも変えてしまうほど、辛く厳しく、我慢強くならなくてはならない状況です。そのため、折り返し地点である極夜を過ぎた1月ごろから、スウェーデンの人々は日に日に日照時間が長くなることを肌で感じ始め、6月の夏至の時期を思い描き、日々を過ごすようになります。日本が春めく3月4月、スウェーデンはまだまだ寒い季節ですが、それでも太陽の光が強くなると暖かさも感じるようになり、多くの人がセーターの袖を肩まで捲り上げて、屋外で日光浴を楽しみます。6月まであと少しの辛抱といった心境と相まって、気持ちが開放的になり、高まります。そしていよいよ5月、6月、一年中待ち望んでいたこの時がやっと来たとばかり、太陽の存在に喜びを感じ、目一杯この季節を味わうのです。

屋外でいただくディナーは格別
Photo:Anna Hållams/imagebank.sweden.se

一年の始まりは9月?

北極圏に近いウメオという街に住むあるスウェーデン人の話は今でも頭を離れません。「9月になると、また一年が始まるといった感情が生まれる」と言います。スウェーデンの中でも特に厳しい自然に囲まれた場所のため、今のような豊かな国に成長するまでは極貧生活を強いられていた地域でした。冬は食物が採れず生きていくことさえも難しい環境下、人々は知恵を絞り9月から10月に収穫した様々な食材を長期保存して冬を乗り越えたと言います。海や森や畑から食べることができる食材を調達して、冬が来るまでに保存食を作り冬支度を整えて、次の夏までの一年間を生き長らえる工夫がそこにはありました。今日、例え北極圏に住んでいたとしても、物流システムが発展し人の往来も頻繁でITの普及により利便性は高まり、昔のような厳しさはありません。しかし冒頭の話をしたのは20代の若い女性、この苦しく大変だった時代の思いは血となり代々受け継がれ、今の時代を生きる彼女たちの核にも存在しているのかもしれません。

気候が良い日は新聞も外で読みます
Photo:Ulf Lundin/imagebank.sweden.se

この時期のディナーの定番は庭やテラスで楽しめるBBQ
Photo:Susanne Walström/imagebank.sweden.se

夏至祭ディナーの定番ニシンの酢漬けも長い冬を乗り越えるための保存食
Photo:Carolina Romare/imagebank.sweden.se

24時間太陽が沈まない北極圏エリアでは真夜中にハイキングや釣りを楽しむことも
Photo:Staffan Widstrand/imagebank.sweden.se

 

堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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