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「森のしあわせ通信」イノベーションを起こすスウェーデン社会

作成者: スウェーデンハウス|2025.05.15

イノベーションを起こすスウェーデン社会

先日2020年版「欧州イノベーション・スコアボード(European Innovation Scoreboard(EIS))」が発表され、10の主要項目からなる総合指数において、スウェーデンは2011年以降10年連続で1位となりました。「欧州イノベーション・スコアボード」とは2001年に導入されたもので、ヨーロッパのイノベーション=革新的な活動に関する調査です。EU加盟国が比較対象となり、ヨーロッパ各国の地域情報調査をもとに採点されています。10の主要項目とは「人材育成」「魅力ある研究システム」「イノベーションに優しい環境」「融資と支援」「安定した投資」「創意工夫」「連携」「知的財産」「雇用への影響」「売り上げへの影響」となり、そこからさらに区分けして27の指標で分析されています。主要項目別の順位ではスウェーデンは「人材育成」において1位となりました。国民一人ひとりの育成とその後の活躍状況が見て取れます。また総合1位のスウェーデンに始まり、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルグ、オランダは、EUの平均をはるかに超えるイノベーションパフォーマンスを持つイノベーションリーダーと認定されました。

新しい物事の考え方や発想、切り口、活用方法、技術革新など、それらを創造する行為を表すイノベーションですが、スウェーデンがイノベーションリーダーとしての地位を長年維持できているわけは、福祉国家であることが一部の要因と考えられ、利害関係が低いビジネス環境を発展させる鍵とも言えます。ベンチャー企業が失敗に終わってしまった場合においても、頼れる社会的セーフティネットがあるということは、起業家がリスクを背負いながらトライし続ける大きな後押しとなり得ます。また1842年に7歳から13歳までの子供たちに対して義務教育を導入し、全体的な教育レベルを高めることを目指す施作に始まり、その後の高等教育と研究に対するスウェーデンの長期的な取り組みは、これまでイノベーションに大きな影響を与えていると言えます。

研究開発(R&D)に関して言えば、スウェーデンは、国内生産(GDP)の3%以上をそこに投資しています。グリーンテクノロジーとライフサイエンスは、スウェーデンの研究者と企業が得意とする2つの分野であり、スウェーデン政府はこの分野をさらに推進するため、国家戦略の策定に特化したライフサイエンスオフィスを設立し、政府機関ヴィノヴァ(Vinnova)が研究の中心的な役割を果たしています。その他、様々な機関がスウェーデンの大学や新しい大学での研究と能力開発に資金を提供することを前向きに行っています。

以前にお伝えしたことのあるスウェーデンの交通安全への取り組み「ビジョンゼロ」もイノベーションの一つです。交通事故の死亡者数を減らし、重大な怪我を負わないための取り組みで、例えば運転手が車を運転する前に、マウスピースに息を吹き込んで血中のアルコール濃度を測定できる機能の開発が行われています。2016年、政府は新しいブロードバンド戦略も採用し、2025年までにスウェーデン全体が高速インターネットへの接続を可能にすることを目指しています。

光ファイバーを素材として活用した織物。スウェーデンのテキスタイル学校では、アートとテクノロジーが密接に関係しています
Photo:Sofia Sabel/imagebank.sweden.se

スウェーデンの課題

世界経済フォーラム(WEF)は、スウェーデンを世界で最も競争力のある国の1つとしてランク付けし、イノベーション能力のトップグレードとしていますが、同時にスウェーデンの課題も取り上げています。例えば高い税金や労働規制、高騰する家賃や大都市における住宅不足が挙げられています。才能ある若者がスウェーデンの都市に移住することはハードルが高いと捉えられているのです。欧州連合以外から来た学生に対する高い授業料もその一つと言えます。そして別のポイントとしては厳しい自然環境に対してです。暗くて寒く長い冬というのは、気候の良い南国に比べるとネガティブな印象を与えるようです。しかし、実はこの厳しい自然環境があるからこそ、スウェーデンの高度な創造性が生まれる要因であるとも言えるのではないでしょうか。そのお話はまた別の機会に…。

ペースメーカーはスウェーデンで開発されました
Photo:Lars Lundberg/imagebank.sweden.se

今日流通しているモンキーレンチは、1891年に特許を取得したスウェーデンの発明家、ヨハン・ペッター・ヨハンソン(Johan Petter Johansson)の発明品です
Photo:Amanda Westerbom/imagebank.sweden.se

地産地消に重きを置き、革新的で創造性あるレシピと味わいの地ビール醸造所が、最近スウェーデン各地に見られます
Photo:Tina Stafrén/imagebank.sweden.se

自動車産業はスウェーデンのトップビジネスセクターの1つであり、エアバッグ、シートベルト、ブレーキ制御システム、レーダー、暗視、カメラビジョンシステムなどの自動車安全装置はスウェーデンが世界をリードしています
Photo:Sofia Sabel/imagebank.sweden.se

 

堀 紋⼦:北欧ジャーナリスト&コーディネーター

10代でスウェーデンに渡り、ガラスのテクニックとデザインを習得後、ストックホルムで活躍するガラス作家に師事。帰国後、創作活動の傍ら北欧の⽂化イベントを企画開催。その後北欧情報誌の現地コーディネートやプランニングに携わる。現在は独⽴し東京とパリにオフィスを持ちながら、ヨーロッパの暮らしや料理の提案、執筆、現地コーディネート、北欧企業のビジネスサポート、PRを⼿がけるなど活動の幅は多岐にわたる。

 

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