家を建てる際に天井や壁・床下などに組み込まれる断熱材は、室内と外の間で熱が移動するのを防ぎ、夏は暑さを、冬は寒さを室内に伝わりにくくするための建築材料です。しかし、種類が多いので、「特徴の違いがわからない」という人は少なくないでしょう。快適な生活を送るには、断熱材の違いを理解したうえで住宅を設計することが大切です。そこで、本記事では断熱材の種類について、それぞれの特徴やメリット、留意点などを解説します。
断熱材は、以下のように3つの系統に分類されます。
● 繊維系
● 発泡プラスチック系
● 天然素材系
ここからは、断熱材の種類を系統ごとに分けて特徴を解説します。
繊維系は、ガラスや鉱物、木材や古紙を繊維状に加工したものです。
繊維の隙間には細かな空気の層があり、これが熱を伝わりにくくする役割を果たします。空気は元々熱を伝える力(熱伝導率)が非常に低いため、動かずにとどまっていることで外気からの熱の侵入や、室内の熱が逃げるのを抑えてくれるのです。そのため、繊維系の断熱材は繊維と空気の組み合わせによって高い断熱効果を発揮します。
繊維系の断熱材は、原料により以下のように分けられます。
● 無機質系(鉱物系):グラスウール、ロックウール
● 木質繊維系:セルロースファイバー、ウッドファイバー
同じ繊維系でもそれぞれ特徴や性能が異なるため、それぞれのメリットや留意点を確認しておきましょう。
グラスウールは、ガラスを溶解して綿状の繊維に加工した断熱材です。製品ごとに繊維の細かさ(密度)や厚みが異なり、密度が高く繊維が細かいものほど熱伝導率が低く、断熱性能が高くなります。グラスウールのメリットは、以下のとおりです。
● 防音効果がある
● 不燃性がある
● 経年変化しにくく高耐久
● リサイクルガラスを利用するため環境に優しい
● 比較的安価に手に入る
空気層は熱の他に音も通しにくい性質を持つため、防音効果が期待できます。素材がガラスであるため不燃性が高く、万一の火災時でも火の広がりを抑えられる点も特徴です。また、ガラスは経年劣化しにくく高耐久で、適切に施工すれば長期間安定した性能を維持することが可能です。
さらに、グラスウールはリサイクルガラスを原料にしているため、環境負荷が低い断熱材と言えるでしょう。他の断熱材に比べて、比較的安価に手に入る点も大きなメリットです。
なお、グラスウール自体は水を吸収しにくいものの、繊維の隙間に水分が入り込むと空気層が失われて断熱機能が低下する恐れがあります。そのため、施工時には防湿シートを併用するなど、水分の侵入を防ぐ対策が重要です。
ロックウールは、玄武岩や天然岩石を原料として作られる断熱材です。繊維の隙間に含まれる空気層が熱を伝わりにくくし、断熱効果を発揮する仕組みはグラスウールと同様ですが、原材料がガラスでなく岩石である点が特徴です。ロックウールのメリットは、以下のとおりです。
● 耐火性に優れる
● 防音効果がある
● 害虫に強い
もともと岩石は火に強く、ロックウールは建築基準法上の不燃材料として認められている断熱材です。耐火性に優れるため、火災時の延焼リスクを抑える目的で大規模建築物や公共建築物に使われます。
また、繊維間へ空気層が音の伝導を抑えてくれるため、防音性にも優れています。さらに、シロアリなどの害虫による被害を受けにくいのも、素材が岩石であるロックウールのメリットです。
一方でロックウールは繊維の隙間に水分が入り込むと乾きにくく、湿気を含んだままになると断熱性が低下する恐れがあります。
さらに、ロックウールは重いため、水分を含むとより重量も増し、施工時にズレやたわみが生じるリスクもあります。隙間ができると熱が出入りしてしまい、断熱性が低下する可能性があります。
このため、グラスウール同様、防湿シートなどで水分の侵入を防ぐ施工が重要です。
セルロースファイバーは古紙や製紙などのパルプを細かくほぐし、耐熱処理や撥水加工を施して作る断熱材です。繊維の間の空気層だけでなく素材自体にも空気胞があり、優れた断熱効果を生み出します。セルロースファイバーのメリットは、以下のとおりです。
● 高い断熱性
● 優れた防音効果
● 調湿性がある
繊維が細かく絡み合っているため空気層が多く、高い断熱性と防音効果を備えています。さらに、パルプは高湿度で水分を吸収し、低湿度で水分を排出するという調湿性がある点も特徴です。そのため、室内の湿度を快適に保ちやすくなります。
ただし、施工方法が特殊なため、対応している施工会社は多くありません。また、手間や機材が必要になることから施工費用が高額になりやすい点に留意が必要です。
ウッドファイバーは木材を粉砕し繊維状にし、高密度に圧縮形成して作られた断熱材です。木材の表面には微小の穴が空いており、ここに内包された空気層が熱や音の伝導を抑えることで断熱性、吸音性を発揮します。ウッドファイバーのメリットは、以下のとおりです。
● 高い吸音性
● 間伐材や倒木などの再資源化による環境配慮
● 調湿性がある
木材は多孔性があり、無数の穴が音を吸収してくれます。室内に響く音をやわらげる効果があり、の吸音性の高さから、防音室や音楽スタジオでも利用されています。また、ウッドファイバーの木材は倒木や間伐材などの資源から作られており、環境負荷を抑えたエコな断熱材としても注目されています。
木材由来のため、室内の湿度が高い時には水分を吸収し、乾燥時には放出する「調湿効果」を持ち合わせています。一方で水分を含み過ぎると、断熱性が低下したり、結露やカビの原因となったりする可能性があるので注意が必要です。
発泡プラスチック系断熱材はプラスチック樹脂を発泡させたもので、石油系とも呼ばれる断熱材です。樹脂の中に形成された細かな気泡に空気やガスが閉じこめられており、これらの気泡が熱を伝わりにくくすることで優れた断熱性能を発揮します。
ただし、発泡プラスチック系は、全般的に経年劣化で断熱性が低下しやすい点に注意してください。
発泡プラスチック系の主な断熱材は、以下のとおりです。
● ポリスチレンフォーム
● ウレタンフォーム
● フェノールフォーム
それぞれの種類について、詳しく解説します。
ポリスチレンフォームはポリスチレン樹脂を加工した断熱材で、「ビーズ法ポリスチレンフォーム(EPS)」と「押出法ポリスチレンフォーム(XPS)」に分けられます。
ビーズ法ポリスチレンフォームは、発泡スチロールに近い素材で、押出法ポリスチレンフォームはより密度が高く強度のある断熱材です。ポリスチレンフォームには水に強い特性があるため、外張り断熱工法や家の基礎部分の断熱によく使われます。主なメリットは、以下のとおりです。
● 優れた防湿性・防水性
● 結露しにくい
● 軽くて加工が容易
ポリスチレン樹脂は防湿性・防水性が高く、湿気や水分をほとんど吸収しません。水分を弾く性質があり、結露の防止につながります。また、軽くてやわらかいため、建築現場での加工も容易です。特殊な形状の建物にも対応しやすい点も施工上のメリットです。
ただし、熱に弱い性質があり、高温環境下では形状が崩れることがあるため、屋根裏や高温部位での使用には注意が必要です。
ウレタンフォームは、ポリウレタン樹脂に発泡剤を加えて成形した断熱材です。樹脂内の気泡には熱を伝えにくいガスが充填されており、発泡プラスチック系の中でも高い断熱性を持ちます。また、耐候性が高いため気候による影響を受けにくいことから、外張り断熱工法でよく利用されます。ウレタンフォームの主なメリットは、以下のとおりです。
● 断熱性が高い
● 防湿性・防水性がある
● 結露しにくい
ウレタンフォームは、建築現場で吹き付けて施工するため継ぎ目がなく、熱の侵入を防いでくれます。また、水を弾く性質を持ち、結露やカビが発生しにくい点もメリットといえるでしょう。
ただし、ウレタンフォームは燃焼時に有毒ガスを発生するリスクがあり、防火対策が必要です。また、長期間使用することでガスが抜け、断熱性能が少しずつ低下する経年劣化にも注意が必要です。
フェノールフォームは、フェノール樹脂に発泡剤や硬化剤を加えて形成した断熱材です。フェノール樹脂は熱に強く燃えにくい性質を持つため、他の発砲プラスチック系断熱材に比べて耐火性が高いのが特徴です。フェノールフォームの主なメリットは、以下のとおりです。
● 断熱性が高い
● 防湿性・防水性がある
● 耐火性がある
グラスウールと比較すると、熱伝導率は半分近くに抑えられます。具体的な数値では、グラスウールの熱伝導率は0.038W/m・K程度、フェノールフォームは0.020W/m・Kです。「W/m・K」は熱伝導率を表す単位で、熱を伝えにくいほど数値が低くなります。
また、防湿性・防水性も高く、結露の発生を抑えられるため、外張り断熱工法などでもよく使用されています。
発泡プラスチック系ではありますが、熱に強く、燃焼時に有毒ガスが発生しにくい点も安全性の高さにつながっています。
一方、フェノールフォームは形成に複雑な工程が必要であり、フェノール樹脂の需要が高いことから、施工費用が高額になる傾向にあります。
天然素材系とは、天然由来の原料を用いて作られる断熱材です。化学製品の使用を抑え、素材本来の性質を活かした製品が多い一方で、大量生産が難しいため、やや高額になりやすい点が特徴です。主に、以下2つの種類があります。
● 羊毛(ウールブレス)
● 炭化コルク
それぞれ、特徴と留意点を見ていきましょう。
羊毛(ウールブレス)は、羊毛をマット状もしくは綿状に加工して作られる断熱材です。羊毛は繊維が縮れており、多くの空気を含むことで断熱性能を発揮します。羊毛は古くから衣類や寝具などに利用されてきた素材で、温度や湿度の変化に対応しやすい性質を持っています。羊毛のメリットは、以下のとおりです。
● 断熱性が高い
● 優れた調湿性能
● 防虫効果がある
羊毛は調湿性能に優れ、湿度が高い時には水分を吸収し、乾燥時には放出することで室内の湿度を快適に保ちます。また、防虫剤(ホウ酸等)が施されておりダニや害虫の被害を受けにくい点も安心です。
ただし、羊毛は主に海外から輸入しており、人工素材に比べて生産に限りがあるため、価格が高額になりがちです。また、施工においても湿気対策や防火対策を適切に行う必要があります。
炭化コルクはコルクの粒を型にはめ込み、高温で熱して圧縮し、炭化させた断熱材です。コルクには微小な空気層があり、この空気層が熱の伝わりを抑える働きをします。熱伝導率は0.037~0.045W/m・Kで、グラスウールと同程度です。炭化コルクには、以下のようなメリットがあります。
● 耐水性が高い
● 吸音性がある
● 防虫効果がある
コルクはワインの栓に利用されるほど、耐水性が高い木材です。一般的な木材と違って水が染み込みにくく、水分に触れても長期間変質しません。
炭化コルクはもともと、機械工場で発する音を抑えるために利用されていました。コルク内部の空気層が音を吸収し、外部からの騒音や室内の反響音をやわらげる吸音効果があります。また、コルクには天然の防虫効果があるスペリンという物質が含まれており、ダニや害虫を寄せ付けにくい特性を持っています。
なお、炭化コルクは材料が希少であり、多くが海外からの輸入になるため、コストが高額になりがちな点に注意が必要です。
断熱材には「繊維系」「発泡プラスチック系」「天然素材系」など、原料の構造によってさまざまな種類があり、それぞれに特徴や適した使い方があります。メリットや留意点を理解しておくことで、ご自身に合った断熱材を選ぶ目安になるでしょう。
ただし、どれほど高性能な断熱材を使っても、住宅の隙間から熱が出入りしてしまっては、本来の性能を十分に発揮することはできません。快適な住まいづくりには「断熱性」と同時に「気密性」の確保が欠かせません。
スウェーデンハウスでは家全体を高性能なグラスウールでしっかり包み込み、壁の継ぎ目や床との接合部に至るまで徹底した気密施工を行なっています。さらに、壁内や小屋裏に通気層を設けることで湿気を効率よく排出し、断熱材の性能を長く保つ通気工法も標準採用しています。これにより、断熱材が本来持つ性能を最大限に引き出し、一年を通して快適で省エネな住まいを実現しています。
「家中どこでも心地よい」住まいを叶えるためには、断熱材の選び方だけでなく、家全体のつくり方が大切です。ぜひ一度、スウェーデンハウスのモデルハウスでその違いをご体感ください。
[筆者プロフィール]
宅地建物取引士、行政書士、不動産コンサルティングマスター
大手不動産仲介会社など計5社に勤める。不動産売買仲介・不動産買取・事業用定期借地権での法人テナント誘致などを行う。これらの業務に18年間携わり、不動産売買全般、借地、税金、相続などの分野に強い。現在、不動産・金融webライターとして執筆活動中。愛知県出身。